hue and cry

egil olsen / Gareth Dickson Japan tour 2013ツアー後記

4ヶ月遅れでツアー後記を書くことにいかほどの意味があるのかわかりませんが、6月のタマス・ウェルズのツアーを控えるいま、やはり振り返っておくべきだと思い立ち、少しことばを費やそうと思います。

はじまりはガレス・ディクソンとのやりとりがきっかけでした。日本に行きたいから誰か紹介してくれないか、と。かつて、数年前だと思いますが、ぼくは彼に「ニックド・ドレイク」プロジェクトの音源化を提案したことがあったのですが、そのときはあまり乗り気じゃありませんでした。「ツアーやるならなにかリリースがあったほうがいいよ」と改めて提案してみたら、今度はやる気になってくれて、ニックド・ドレイクの『Wraiths』のリリースが実現したのでした。『Wraiths』はぼくが長年温めていた企画でしたし、ガレスにとってもとても意味のあるものになりました。そのことは後述します。

ツアーとリリースのプロジェクトが動きはじめたとき、ガレス・ディクソン以外にもう一組を招いてジョイント・ツアーという形にしようと考えましたが、最初はもう一組はエギル・オルセンではありませんでした。実はもう確定してすべてが動いていたときにそのひとからNGが出て、当然のように困り果てたものの、急遽連絡してみたらエギルは即答で「日本に行きたい」と言ってくれました。8月のおわりのことでした。

ガレス・ディクソンとエギル・オルセン。音楽性も性格もまったく違うふたりの共通点をがんばって挙げようと思ってもなにも思い浮かびませんでした。彼らは日本ではじめて出会い、ともに旅をし、お互いを認め合い、そしてもしかしたらもう二度と会わないかもしれません。出会いと別れに伴う喜びと悲しみを凝縮したのがツアーのおもしろさだとしたら、このツアーもいろんなことが起こったと思います。ガレス・ディクソンの10年くらい着つづけているような毛玉だらけのトレーナーやエギル・オルセンの「egil olsen, singer/songwriter」と書かれたネームプレートなんかをたまに思い出してはぼくはずっとニヤニヤするのでしょう。

今回のツアーで4公演を行ったのですが、毎回、交互にトリを入れ替えました。ガレス・ディクソンの演奏には安定感がありましたが、エギル・オルセンはトリの日の出来が抜群によかった。たぶん彼は「トリ」という重要な役割を与えればその分はりきるタイプなんでしょうね。こういったジョイントツアーをおこなったのははじめてですが、たとえばエギル・オルセンが「i love you Nagoya」と言えば、ガレス・ディクソンが「i also love you Nagoya」と言う。エギルが「ガレスよ、MCとはこうやるんだよ」みたい言えば、ガレスは「ぼくのグラスゴー訛りでなに言ってるかわからないかもだけど、普段のぼくはもっとおもしろいんだよ」みたいに言う。そんなある種の対抗心がお互いのパフォーマンスにいい影響をもたらすのかもしれないですね。

ガレス・ディクソンのギターにディレイをかけた独特の演奏とささやくようなヴォーカルはいつも「向こう側」の世界を見せてくれました。でも、あまりにニック・ドレイクにフォーカスされすぎてしまったことについては、ぼくはちょっと責任を感じました。ガレスは『Wraiths』を作ったことで、「ニックド・ドレイク」プロジェクトは終わりにすると言っていて、実際にジャパンツアー以降、ニック・ドレイクのカヴァーはライヴで演奏していないようです。いろんなひとがガレスのカヴァーがニック・ドレイクにそっくりだと言っていましたが、いちばん近くにいた人間として、それでもぼくは彼のニック・ドレイクはとても「ガレス・ディクソン的」だと思いました。観客の期待に応えるかのようにツアーファイナルのCAYでの公演で予定よりもニック・ドレイクの曲を多く演奏していた彼の健気さに痛々しさも感じたりしましたが、そのあとの「Get Together」のクライマックスの圧倒的な神々しさを決して忘れないでしょう。ニック・ドレイクとか12Kとか関係なく、ガレス・ディクソンはガレス・ディクソンでした。

そしてエギル・オルセン。ライヴのたびに「My name is egil olsen. I am a singer / songwriter. i’m gonna play ‘singer/songwriter’. from my 1st album “I am a singer/songwriter”. 」という笑いを誘うお決まりの自己紹介を欠かさないのは、この曲が鬱病を克服し、じぶんの存在意義を高らかに歌い上げた曲だから。ガレスとは対照的に(意外にも)地に足の着いた、シンプルなギター弾き語り(たまにピアノも)はとても美しく親密なもので、彼のスペシャルな歌声はあらゆるひとたちの心のバリアを消し去るような温かみに満ちていました。菅野よう子との一連の仕事で近年名前を知られるようになりましたが、このツアーでは映画『ペタル ダンス』の主題歌「crouka」はギター弾き語りでカヴァーしました(オリジナルはピアノ)。菅野さんとエギルで考えたノルウェー語と造語による歌詞は異世界感満載でしたが、実際に演奏されたギターヴァージョンはふわふわした風船のようにエギルの歌が糸となってこの世界をつないでいるような印象を受けました。

ミュージシャンになる前はノルウェーでただひとりのプロの特殊メイクアップ・アーティストだった意外な過去と、それゆえのハリウッドへの憧憬、10代のころから好きだったという美人の奥さんと2匹の愛犬への愛情とかいろいろ話をするなかで、永遠の少年の遊び心のようなものと同時に、大人の落ち着きと芯の強さを感じさせ、彼の書く歌詞がいずれもシンプルでストレートな理由がよく理解できました。ちょうどツアーにあわせてリリースされた「find a way」の歌詞にはこうあります。

「道をみつけるんだ/森をまた抜けて/夜を捨てて/道をみつけるんだ/木のうえ、雲のした/月は明るく輝いている」

エギルもガレスもそれぞれお互いの道をみつけたんでしょう。エギルはニュー・アルバムが間もなく完成し、秋にリリース予定とのこと。ガレスもニュー・アルバムを作って、戻ってきたいと言っていました(ヴァシュティ・バニアンが新作を作っていてそれに参加しているみたいで、そっちのほうが早くできそうなので、彼女のツアーで日本に戻ってきそうな予感…)。

改めて、このツアーに関わってくださったありとあらゆるみなさま、すべてのお客様に深く感謝いたします。

ぼくはこのツアーがおわってほんとうに疲れきってしまい、「もうツアーはやらない」と書きましたが、あれは嘘だったみたいです。次はタマス・ウェルズ。6月に会いましょう。

*写真は三田村亮さんにお借りしました。

[egil olsen / Gareth Dickson Japan tour 2013] Setlist

11/16 Tokyo – Fujimigaoka Church

egil olsen
Singer / Songwriter
One Man Show
Find a Way
You and I (and the Dog)
She and Him (and I)
Wannabe
Crouka (Yoko Kanno)
Birds in My Backyard
1000 Songs (4 You (2 Night))
Learn to Laugh
Let’s Go Crazy

Gareth Dickson
Noon
Technology
Two Trains
Harmonics
Fifth
From the Morning (Nick Drake)
Harvest Breed (Nick Drake)
Pink Moon (Nick Drake)
Which Will (Nick Drake)
If I
Jonah
This is the Kiss
-
Atmosphere (Joy Division)

11/17 Kyoto – Urbanguild

Gareth Dickson
Amber Sky
Song, Woman and Wine
This Is the Kiss
Jonah
The Big Lie
Road (Nick Drake)
Cello Song (Nick Drake)
From the Morning (Nick Drake)
Fifth
Technology

egil olsen
1000 Songs (4 You (2 Night))
Singer / Songwriter
Don’t Stop Me Now (Queen)
Find a Way
Do It Yourself
Deep Down the Basement
Wannabe
In the Middle of Norway
You and I (and the Dog)
Crouka (Yoko Kanno)
Save a Life Tonight
Birds in My Backyard
-
I Believe in Magic
Toilet
Let’s Go Crazy
Keep Movin

11/18 Nagoya – Spazio Rita

egil olsen
Dot
Singer / Songwriter
Find a Way
Boombastic (Shaggy)
You and I (and the Dog)
Tomorrow Tomorrow Not Today
Same Old Fool
Wannabe
Crouka (Yoko Kanno)
1000 Songs (4 You (2 Night))
Nothin (I Don’t Care Anymore)
I Believe in Magic
Location Location Location
Keep Movin

Gareth Dickson
Amber Sky
Song, Woman and Wine
This is the Kiss
Jonah
Fifth
From the Morning (Nick Drake)
Harvest Breed (Nick Drake)
Pink Moon (Nick Drake)
Which Will (Nick Drake)
Like a Clock
Get Together
-
Northern Sky (Nick Drake)
Technology

11/20 Tower Records Shibuya Instore show

Nicked Drake aka Gareth Dickson
Harvest Breed
From the Morning
Northern Sky
Road
Cello Song
Which Will
Pink Moon

11/21 Tokyo – CAY

Gareth Dickson
The Big Lie
This is the Kiss
Jonah
If I
From the Morning (Nick Drake)
Harvest Breed (Nick Drake)
Road (Nick Drake)
Cello Song (Nick Drake)
Which Will (Nick Drake)
Get Together

egil olsen
1000 Songs (4 You (2 Night))
Singer / Songwriter
Find a Way
Boombastic (Shaggy)
You and I (and the Dog)
Location Location Location
Go 4 Six
Same Old Fool
Wannabe
Save a Life Tonight
Crouka (Yoko Kanno)
Birds in My Backyard
-
Nothing Like the Love I Have for You
I Believe in Magic
Let’s Go Crazy
Keep Movin

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