hue and cry

The Leisure Society『Into the Murky Water』全曲解説

先日、ついにリリースされたザ・レジャー・ソサエティ『Into the Murky Water』。すでに聴いていただいたかた、ありがとうございます。評判がいいのに気をよくしております。

リーダーでソングライターのニック・ヘミング(画像左)と、アレンジやプロデュースなどバンドのサウンドの中核を担うクリスティアン・ハーディ(画像右)のふたりによるアルバム全曲解説が届きました!かなり長いですが、とても興味深い内容になっているので、ぜひアルバムを聴きながらお読みください。

1. Into The Murky Water

Nick:
この曲は2年以上前に書きはじめたんだ。ファースト・ヴァースとコーラスはなにもないところから生まれたんだ・・・仕事に行こうとしてたときにね。でも、そこからどこに進めばいいのかわからなかった。1年後、アルベール・カミュの『転落』を読んで、彼の本には主題に並行したたくさんのことが書かれているのを発見して、ぼくはそこからインスピレーションを得て、この曲を書き上げたよ。ウクレレで書いたんだけど、いつもマリンバを想像してたね。実際、結局3人の別のマリンバ奏者によって3オクターヴでレコーディングされた。3人のうちのひとりはロンドン・フィルハーモニック・オーケストラのアンディ・バークレイだよ。マイク(・シデル)のストリングスのアレンジメントとマリンバのコンビネーションによって、ぼくがだいすきな映画のサントラのようなクオリティを得ているね。ぼくらはケントでの最初のレコーディングの旅でこの曲をなんどもジャム・セッションしたんだ。セバスティアン(・ハンキンス)がトライバルなドラムを持ち込んで、クリスティアンはローズ・ピアノでひずんだコードを弾きまくってた。ぼくはこの曲がアルバムのオープニング・トラックにならないといけないと思ったよ。

Christian:
ニックは2009年のツアー以来、ヴァンのなかでたまにこの曲を演奏していたね。ぼくらはリリックがないまま、ハーモニー・パートをハミングで歌ったり、ライヴのサウンドチェックのときにドラム、ベース、ローズ、ウクレレでジャムったりね。たぶんばかばかしいと思われるかもしれないけど、オペラ歌手、ハープ、ブラス・セクションとの20秒のブレイクダウンに1ヶ月もかけてアレンジとミックスをひとりで行ったんだよ。この曲は間違いなくいろんな意味でアルバムの青写真となったね。

2. Dust On The Dancefloor

Nick:
この曲はアルバムのなかでもお気に入りのひとつだね。ラフなバッキング・トラックをまずレコーディングして、ほとんどのリリックは地元の仲間に会うためにドライヴして帰るときに書いたんだ。CDプレイヤーで流して、一番高い声で歌いながらね。次の「Top Gear Anthems」コンピレーション(あるいはただの90年代的現象?)を彩るのを期待してるよ。この曲は年とった孤独な独身男の視点から書かれてるんだ・・・破綻した関係の人生、死の床からの回想・・・ハートウォーミングだよ!

Christian:
ニックがこの曲をはじめてぼくらに聴かせてくれたとき、彼のデモはもうすでにアイデアとハーモニーとギターフックが満載で驚くべきものだったよ。みんなすぐに気に入って、ケントの家でスウェーデンっぽいかんじの一定のリズム・セクションをレコーディングしたんだ。ウ〜ウ〜ってコーラスはレンタルしたハモンド・オルガンといっしょにミックスしてる。この曲をライヴで演奏するのが待ちきれないね。新しいチャレンジなんだ。けど、リハーサルは途方もないかんじがするな。ヴァイオリニストのマイクがエレクトリック・ギターを弾いたり、フルートのヘレン(・ウィテカー)がハルモニウムを弾いたりね。ぜんぶチャレンジだよ!

3. Our Hearts Burn Like Damp Matches

Nick:
『The Sleeper』が完成したぐらいのころに書いた曲。モルデンの倉庫で働いてた時間や、そのころに起きたいいことや悪いことに広くインスパイアされてるね。ピッチがなんども跳び回るから歌うのが大変なんだ。もともとアルバムに入れるために作ったわけじゃなかったから、こうしてアルバムに入ってうれしいよ。チャールズ・ブコウスキの詩集のためのすばらしいタイトルみたいにいつも思えるんだよね。

Christian:
最初からとても大好きだった曲だよ。ニックがこの曲のギターとヴォーカルのテイクを持ってきてすぐ、ぼくらはグリーンウィッチのトリニティ・カレッジで古くて美しいアップライト・ピアノの音を加えたんだ。トラックの下でハング・ドラムがやさしくブクブクと鳴って、完全に部屋の自然なエコーでヴィンテージのパイプ・オルガンが鳴ってる。たぶん『The Sleeper』に入るべきだった曲かもしれないね。ヘレンがバッキング・ヴォーカルをいくつも歌ってて、ニックやぼくの声とミックスするのがとても楽しかったよ。もともとはローラ・マーリングにそのパートを頼んでたんだけど、ヘレンがうまくやってくれて満足してるよ。

4. You Could Keep Me Talking

Nick:
この曲のラフ・デモを聴かせたとき、みんななんて恥知らずなぐらいポップなんだと少しショックを受けたと思うよ。基本的にはぼくの社会的な失敗や、パーティーでみっともなく感じたことについての歌なんだ。ブライアン・イーノの家でのクリスマス・パーティーに招待されて、次の日の二日酔いのぼうぜんとした朝に書いた曲だよ。その夜、ぼくはかなり自意識過剰なパーティー好きだったね。みんな輝かしい参加者ばかりだったし、ぼくは人間的に可能な限り速く酔っぱらってじぶんを補ってたんだ。タバコを吸うために外に出て、ライターをとろうとジャケットのポケットに手を入れたとき、なぜだか数サイズ小さすぎるレディースのコートを着てることに気づいたんだよね。酔っぱらいすぎて恥ずかしくも思わない、っていうのがぼくが求めてた状態だったんだ・・・ミッション完了だったよ。

Christian:
レコーディングするのがすごい楽しかったね。ニックの有名なみっともなさや、無作法のたくさんの記憶を思い出すってだけじゃなくて、たくさんの大クレッシェンドやツイスト・アンド・ターンがある曲だから。音楽的にはカチッというかんじのベースとギター、ドラムを閉じ込めたのがすべてで、それにアレンジメントを組み立てるのがとても楽しかったよ。ぼくはヴィンテージのハープシコードを正確さが必要とされる小さな木製のキーボードといっしょに演奏したね。ミュージシャン友達と一時的な聖歌隊を結成して、ぼくらの並びに加え、ビッグなコミューンのヴォーカル・サウンドを作り上げた曲のうちのひとつだよ。そのセッションはいつも楽しかった。

5. Although We All Are Lost

Nick:
この曲は1stアルバムのリリース・パーティーのときに実は演奏したんだよね。だからとても長いあいださまよってたってことだね。何年もぼくは自分の人生を無駄にしてるなって感じてたんだ。つまらない日雇いの仕事をしたり、余った時間を誰も聴いていないような音楽作りに使ったりね。『The Sleeper』を書いたとき、そんなすべての年月がたんに勉強するための経験で、結局はぼくに自分の歌を書く声を与えてくれたんだって気づいたんだ。リリース・パーティーのとき、注意深く聴いてくれる満員の会場でこの曲を演奏することは、めちゃくちゃ感動的な出来事だったよ。胸がいっぱいになって、セカンド・ヴァースのほとんどを歌えなかったんだ。

Christian:
ひとつの曲としてじゃなくて、長いあいだライヴでも演奏してきて、ぼくらはスタジオで、この曲の自然なノリを記録するために正しくレコーディングする必要があったよ。最終的にはカチカチいうトラックはぜんぶ捨てて、バスのドラムといっしょにニックに生でかき鳴らしてもらったんだ。そこからぼくらは曲をビルドアップしていって、結局はぼくが満足したかんじになる前に、最初のパートのシンプルで正直なままで落ち着いたんだよね。「Although We All Are Lost, Our Progress Has Been Mapped」っていうニックのラインはぼくにはとっても意味のあるものなんだ。別のものごとを犠牲にしてなにかのために自分の時間をほとんど使って作ったその曲は、大きな意味を持つようになって、これまでのじぶんの生活を監査する手助けとなるんだ。ぼくが2010年を思い出す必要があったなら、『Into The Murky Water』を置けば、数えきれないほどの思い出が溢れてくるだろうね。そのほとんどがすばらしいものだよ!

6. This Phantom Life

Nick:
この曲は部分的にぼくのもっとも年上の友人の父の死にインスパイアされてる。彼は熱狂的なジャズ・ファンで、初期のザ・レジャー・ソサエティでサクソフォンを吹いてた人なんだ。ぼくは彼のトリビュートとして、サックス・カルテットのイントロを編曲したんだよ。

Christian:
このミックスにはほんとうに満足してる。『The Sleeper』のなかの「A Matter of Time」みたいにこの曲をレコーディングするのはチャレンジだったよ。何回かライヴで演奏してて、いつもすごい反響があったビッグ・ソングだからね。最後のキーボードは速いかんじじゃなくて、徐々にリズムのレイヤーができていったんだ。コーラスに向かって進んでたからね。リズム・セクションを終わせたあと、ニックがぼくがいないあいだにすばらしいギター・ワークを加えてて、ぼくがスタジオに戻ってきたら、口を大きく開けてニヤニヤしてた。ぼくらは一時的な年とった聖歌隊に加わって、ものごとがうまくまわり出したんだ!

7. The Hungry Years

Nick:
『Butch Cassidy & The Sundance Kid』のためのバート・バカラックのスコアのなかにとても短いインタールードがあるんだ。たった2回の繰り返しのコードなんだけど、いくつかの理由でそれが驚くほど感動的なことに気づいて、映画を観るのをやめて、すぐにこの曲を書いたんだ。いままでこんなふうに曲を書いたことはなかったんだけど、この曲が転がり出てきたんだ。クリスティアンに演奏して聴かせたら、「The Last of the Melting Snow」を最初に聴かせたときと似た感情的な反応があって、だからこれが特別なものになるだろうってわかったよ。

Christian:
ニックはぼくの心をかき乱す力を持ってるんだ!「The Last of the Melting Snow」を彼がはじめて歌ってくれたとき、それが彼の経験から来たものだったからぼくは彼に対してすっかりかなしみを感じたけど、とても感動もしたんだ。この曲のデモも演奏してくれたときも、またそれが起こったんだよ。かなしみではなかったね。過去に対するひるまないまなざしと、ぼくらが来た場所を忘れないでいようっていう欲求が、すばらしいコード進行とくっついてやってきたから。親しい友人でいることがこれらの曲に特別な効果を与えてるのかもしれないね。だからそれ自身の意味を帯びて、ぼくらの音楽を聴くひとみんなに関わりが出てくるんだ。この曲はニックがいままで書いたなかでもっとも強度のあるものだと思う。違ったアレンジで10ヴァージョンくらい作ったと思うんだけど、ぜんぶマジカルだよ。

8. I Shall Forever Remain An Amateur

Nick:
最初のアイヴァー・ノヴェロのノミネーションのあと、出版の契約を結んで、ついに倉庫の仕事をやめることができたんだ。その仕事の最終日、ほかに20人が余剰になっちゃって、だからお別れパーティーはとてもビタースイートな状況だったんだ。ぼくはじぶんの夢に向かっての出発だったけど、一方で彼らはどうやって家賃を払っていこうか悩んでた。翌朝、ぼくはギターを持って庭のベンチに座って、青い空に白い月が浮かんでるのを見ながらこの曲を書いたんだ。確かにタイトルには皮肉の要素があるけど同時にぼくはいつもアマチュアのようなものを感じてるんだ。じぶんが好きなことをして生きていけるってことは大変な名誉だよ。

Christian:
繰り返しになるのはわかってるけど、ニックがこの曲の最初の繰り返しをギターで弾いてくれたとき、すごい感動して興奮したんだ。彼がまだ倉庫で働いてたときからいっしょに暮らしていつもいっしょにやってきて、この曲のすべてをぼくは彼と共有してきたからね。ぼくらはすぐにシンプルなピアノのラインを取り入れて、ストレートすぎず、退屈すぎないままドラムを鳴らすベストな方法を探しはじめたんだ。最後にはふたつの生ドラムのテイクをそれぞれのスピーカーのそれぞれのサイドでひとつにミックスしたから、すぐにこの曲にヴィンテージの美学を感じれるだろうね。

9. Better Written Off (Than Written Down)

Nick:
この曲を書いてしばらく誰にも聴かせなかったんだ。スタイル的に他の曲とは違っていたからね。ケントでのレコーディングのあいだ、ビールを数杯飲みながらついにジャムったんだ。演奏するのがすごい楽しかったからアルバムにも入らないといけなかった。内心はただのブルージーなロッカーだけど、ザ・レジャー・ソサエティの典型的なアレンジメントと内省的なリリックがおまけで入ってるかんじだね。コーラスにのっかるバンジョーとピアノのリフだ大好きだよ。『ダウンタウン物語』を思い出させる。

Christian:
ぼくはこの曲は比較的ストレートだと思うよ。すべての曲で少しずつクレッシェンドがあるよりは出発点からストレートなものも必要なんだって心に留めていたんだ。リリック面ではもっとも説得力があるものだし、アレンジでもいくつかエキサイティングな部分があるね。とくにサード・ヴァースのベースがドロップアウトしてチューバがそれにとってかわる部分とか。展開した結果、なにも残らないリリックのアイデアも好きだよ。悲しいことにこういうのを多くのひとは大人と呼ぶんだろう。

10. Just Like The Knife

Nick:
クリスティアンとアルバムの曲順を決めているとき、たったひとつ確かだったのが、「Into The Murky Water」を最初に、この曲を最後にもってくることだった。ぼくにはこの曲は完璧でやさしい別れのように思えるよ。ぼくがすきなレコーディングのやり方には3つの異なった雰囲気があるんだ。ダークで不吉なイントロ、切望するようなミドル・セクション、そして、最後のお祝いのアウトロ。不貞のオードだね。

Christian:
うん、この曲はいつもアルバムをクローズさせるみたいだね。いろんな意味でアルバムを要約してるようなかんじだから。困難と対立が内省と切望につながって、勝利の喜びと祝福でおわるんだ。

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