hue and cry

Dakota Suite – Vallisa 〜闇が終わったとき〜

間もなくGlitterhouseからリリースされるDakota Suiteのニュー・アルバム『Vallisa』は、2009年11月20日にイタリアのバーリで行われたライヴをレコーディングしたもの。Chris Hoosonがヒーローだと公言するアメリカ人チェリストDavid Darlingと、パリのピアニストQuentin Sirjacqとのピアノx2+チェロという編成でのライヴです(Chrisは曲によってギターも弾いています)。

彼にとって生涯最高のライヴであり、「人生を変えた夜」と言うほどのライヴの記録。基本的にライヴ盤なんて、実際にそのライヴを観た人にとってのお土産とか贈り物みたいなものだとぼくは思っています。実際、ぼくもスコット・マシューやタマス・ウェルズなんかのライヴ音源をよく聴き返してはいろいろ思い出していますが、それはあのすてきな記憶を大切にするために聴いているだけです。YouTubeで観るライヴ映像も、実際に観てもいないライヴ盤も、それがじぶんのなかで大きな存在になることはないと思っていました。でも、この作品は少しちがう。それを説明するのは簡単ですけど、Chris Hoosonが書いたすばらしすぎるセルフ・ライナーノーツを読めばもっと簡単にわかるでしょう。文章のほとんどをDavid Darlingへの賛辞に費やされていますが、要するに闇のなかにいた彼が自身を救ったチェリストとともにライヴをすることになった経緯が綴られています。

長いけど、少し引用しましょうか。

ぼくが人生でもっとも暗く、もっとも自己破壊的な時期を進んでいた2008年のこと、デヴィッドの音楽はほとんどぼくの毎日にとって厳粛な賛美歌集となっていた。ほとんど、ぼくが取り込んでいた闇の感覚に対する日々の瞑想のようでもあった。最後のレコード『Waiting for the Dawn to Crawl Through and Take Away Your Life』(2007年作)を作った経験がぼくの感情的健康を完全に痛めつけたから、1年以上ものあいだ、楽器を弾くことすらしなかった。

ぼくは痛みを消し去るためだけにピアノを弾き始めた。もしそうしなければ、ほとんど死んでしまったようであることを知っていたから。ピアノを弾くとき、ぼくはデヴィッドのチェロがぼくの頭のなかでセレナードを歌っていることを想像していた。だから、自分がどこにいるかに気づき、闇が去ったことに気づくのをやめたとき、ぼくはジョアンナ(妻)のためにレコードを作りたいと感じ、彼女に告げた。闇の時代は終わったよ、またきみがぼくを救ってくれたんだ、きみから離れていた一歩ずつが、小さな死を示していた、と。きっと返事は来ないだろうと考えながら、ぼくはデヴィッドにメールを送った。彼にこのプロジェクトの終わりを伝えるために、もし、彼がその曲を気に入らないのなら、他の人にストリングスを弾いてもらうことはしないで、もう二度と聴かないと。ぼくはぼく自身のなかから引っ張り出したこの曲を完成させるために手伝ってくれないかと頼んだんだ。デヴィッドは「イエス」と言った。いまでは彼にプレッシャーを与えたんじゃないかと思って後悔している。

(中略)

そして、2009年の11月20日の夜、ぼくはデヴィッドに初めて会った。それは誰かすでに知っている人に会うかのようだった。カンタン・シルジャクに、友人のシルヴァン・ショーヴォーが参加するはずだったトリオで演奏してもらうように頼んだ。でもシルヴァンは土壇場になって来れなくなり、だからカンタン(いまでは親友である)は準備に48時間しかなかったんだ!

ぼくがみんなに伝えられるのは、このレコードであなたがあなた自身で聴いたことだけだ。もっとも感動的で、スピリチュアルで、心に栄養を与え、ぼくの人生を変えた夜。バーリのヴァッリサ礼拝堂でふたりの男とともに起きた出来事は、これを聴くたびにぼくの核へとぼくを動かすだろう。

『Waiting for the Dawn to Crawl Through and Take Away Your Life』のなかでも一番の名曲「Because Our Lie Breathes Differently」のメロディーにDavid Darlingのチェロの力を借りて、『The End of Trying』で美しすぎるインスト曲に仕上げた「Hands Swollen with Grace」。このライヴ・ヴァージョンの感動は言葉では表せないほどで、原曲を越えたと感じるライヴ・ヴァージョンはおそらく後にも先にもこれ以外ないとすら感じました(下記のp*dis online shopのリンクで試聴できます)。録音のクオリティー自体はたいしたことないですが、ここに録音されてるのはただの音楽だけじゃなくて、闇を乗り越えた男の感情の塊なのです。それ相応の覚悟じゃなければ聴けないから、ぼくはこれで最後にします。

タイミングよく、こちらでDakota Suiteの来日もアナウンスされました。

december 4th osaka
december 5th matsumoto
december 7th tokyo
december 8th nagoya
december 9th wakayama

というかんじで12月上旬のようです。タイミング悪く、タマス・ウェルズの来日と被っていますが。関西のひとはタマスかDakota Suiteか究極の選択を迫られるわけですね。なんというか、お気の毒に、としか言えません(苦笑)

◆p*dis online shop : Dakota Suite – Vallisa 詳細ページ

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