hue and cry

soso 「Birthday Songs」 Reissue

hue下半期最初のリリースとなるのは、sosoのファーストアルバム
「Birthday Songs」のリイシュー。2002年の発売だが、再プレス
されることなく近年は長らく廃盤となっていた。そもそも、この
アルバムとの邂逅によって俺とsinは本格的にこちらの道へと足を
向けることとなったもので、思い入れもひとしおな一枚である。
だが、同時に最近この手の音を聴き始めた人たちがこのアルバムを
入手できないことを遺憾に思っていた次第で(このアルバムの
レビューを書いた2002年のことを今でも鮮明に思い出すが、あれから
4年も経過したのだ! そりゃ、またワールドカップやってるわけだ)

少なからずこのジャンルの旗振り役を担っているhueというレーベル
は、その存在の新たな意義として、生まれ続ける新しい音を紹介する
以外にも、廃盤によって埋もれてしまった珠玉の作品に新たな生命
を吹き込むことを考えた。そしてsinの尽力によって、ここに
「Birthday Songs」が再び世に送り出される運びとなった。
2006年夏、唄は、また歌われる。


しかもただの「Birthday Songs」ではない。まさにRebirthしている。
ニューアートワーク、ボーカル再録、本編に2曲のアディショナル・
トラック。まさにこれは監督トロイ・グロンズダールが自ら手を加えた
「完全版(ディレクターズ・カット)」 として、4年の時を超えて
甦らせたのである。

1曲目からして追加トラックで幕を開ける。「The first of a thousand
goodbyes」。なんという示唆的なタイトル。シニシズムやアパシー
ではない、人は別れを繰り返す生き物であることをそのまま受け入れる
ような物悲しさを湛えている。soso節が冴え渡るピアノのループ、
そしてクリスピーなビートに乗せてエモーショナルさを増したトロイ
の言葉が響く。彼のライムは徐々に上昇線を描き、不安定に揺らぎ
ながらも高揚していく。 「わかっているさ、そんなことは。そうさ、
これは千の別れの、その初めての体験だってことくらい。」そんな
風に繰り返されるフックから、悔しさや哀しみを感じ取る。

ここから始まり、ちょうど真ん中にあたる6曲目にもう1つの追加曲
となるインストを配置することで、アルバムを通した印象は変わる。
涙が枯渇していた場所に涙が戻ってきたとでも言おうか(判り難い
喩え、申し訳ないですが)。もっと具体的な言葉を出せば非常に
エモーショナルなアルバムとなっている。再録されたボーカルに
よって、それまでの楽曲も淡々とした中に蠢く感情の襞が見え隠れ
するようになった。単純にそのままテイクをやり直すのではなく、
トロイはリリックも追加しているゆえにだ。実際のところは、対訳
を待ちたいが何箇所かは新たなパートを聴き取ることができたので
間違いない。なかでもM7「Dyke Look」における”Fly Your Rainbow Fly”
というラインは俺の心を揺さぶった。

追加曲となるインストも、短いながらも小品といった類のものでは
なく、明らかに傑作2nd「Tenth Street And The Clarence」で培った
手法を踏襲したものだ。今更、俺の2万字レビューを読んでもらう
わけにはいかないので詳細な説明は割愛するとして、サンプルボイス
のモノローグによってメッセージを残すという、アレだ。そこで
示唆されるメッセージは、「Birthday Songs」の世界観にさらなる
色彩を加えている。

そして、2ndでの淡々と進んでいくポエトリースタイルに近い
ボーカルとはがらっと様相を変えたトロイのライム。

これは単純に俺の妄想でしかないが、来るべき3rdアルバムへの
橋渡しをこの再発盤に担わせているのではないだろうか。つまり、
「Neil Young Meets Portishead」と本人が呼称した、現在構想
段階にある完全ウタモノとなるsosoのサード。それは間違いなく
様々な感情に満ち溢れたエモーショナルなものとなるだろう。そこ
へとスムーズに移行できるように、新「Birthday Songs」はこの
ようになったのだと俺は解釈している。だが、元来祝福の意味合い
が強く滲み出るこのタイトルに、ここまでメランコリーや哀しみ
を持たせてしまうことに今更ながら驚きを禁じ得ない。

その辺の謎の解明は、対訳を踏まえた上でまた1万字くらいにまとめ
たいと思う。彼の作る音に耳を傾けていると、止め処なく妄想が
膨らんでいったり予想もつかない場所へと着地したりする。俺に
とっては考える葦としての機能をきちんと働かせてくれる貴重な
存在なのだ、トロイの作る音や彼の声というものは。それは、彼が
様々な意図や思惑をタペストリーのようにアルバムの中に織り込む
稀代のコンセプトメイカーであり、そんな謎の提示に真っ向から
挑戦したくなる推理小説愛好家としての性が燃え上がるだけかも
しれないけれど。

なお、新しいジャケットもまた慈しむべきものとなっている。

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