hue and cry

Scott Matthew 来日後記

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たったの2日間のことだったとはいまだに思えないけれど、スコット・マシューと過ごした時間は、彼の言葉を借りるなら、とても”beautiful”で”lovely”なものだったと思います。

スコット・マシューは七夕の夜、さいたまスーパーアリーナのステージに立ちました。この夜、平日にも関わらず、1万7000人もの観客を動員したというから驚きです。8年前の8月、同様に彼は菅野よう子率いるシートベルツのライヴで来日していますが、その時の会場が渋谷AXだったことを考えると、その後の菅野さんの活躍がいかにすごいものかどうかわかるはず。なにより驚いていたのはスコット・マシュー本人かもしれない。それだけの観客の前で歌うことは初めての経験だったわけですから。

残念ながら僕自身はスコットの晴れ舞台を目撃することは叶いませんでしたが、「drama and action. and me singing sad songs」というスコット自身の微笑ましいコメントから想像を膨らませました。しかし、地下からリフトに乗って登場するスコット・マシュー・・・観たかった(笑)

スコット・マシューのソロ・ショーケースはそんな「エクストラヴァガンザ(=派手な祭典)」(スコット談)と比べるとおそらく1000分の1以下の慎ましやかでプライヴェートなものだったでしょう。両者を比べられてしまうとちょっと困ってしまいますが、この夜、ぼくらはスコットの歌声を最大限にみんなに届けることだけを目標に場所を作ったのです。

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会場は自由学園明日館の講堂。ちょうど1年前にタマス・ウェルズのツアー・ファイナルで使用したliricoご用達の会場です。まず最初に描いたイメージは『ショートバス』のサロンでした。停電した夜のサロンを照らす暖かい無数のキャンドルの灯り。けど、重要文化財である明日館はもちろん火気厳禁。さて、どうしよう・・・と考えていたときに出会ったのが、「Fleursy Candle」の試作品でした。

手彫りのキャンドルの内部にLEDライトを組み込んだハンドメイドの火を使わないキャンドル(実際に光っている様子がYouTubeでご覧いただけます)。今回、サポートとしてピアノ演奏を依頼した作曲家/アーティストのTakahiro Kidoさん自身のRicco Labelによる作品で、今回のライヴのためにたくさん用意してもらいました。ある意味では今回、Fleursy Candleのお披露目でもあったわけです。結果、実に幻想的でドリーミーな雰囲気(時にサイケデリック)を作り上げることができ、個人的にはとても満足しています。

そして、肝心のライヴですが、最高でした!つねにハナウタを歌ってその「いい声」を惜しげもなく披露している人だったので、ライヴ前から期待させてくれていましたが、実際の生歌の美しさは確固たる芯の強さを持っていて、およそ60分のあいだ、魅了されつづけました。ジョン・キャメロン・ミッチェルは彼の歌声をして「天使」と評しました。スコット・マシューと菅野よう子を引き合わせたという彼の古くからの友人チェリー・カオル・ハルシーさん(1stアルバムのライナー中、彼女がスコットとスペンサー・コブリンのユニットelva snowでギターを弾いていたというような記述がありましたが、それは誤りです。ここに訂正してお詫びいたします)とお会いしましたが、彼女はスコットのことを「彼ほど純粋な人はいない」と言いました。スコットは自分のことを「人に恵まれたとてもラッキーな人間だ」と言いました。そして、ぼくは言うでしょう。「彼の人間性や純粋さこそが人を惹き付ける」と。先日のライヴを観てくれた人なら納得いくはずです。さらに彼は言いました。「シンガーにとって最も大切なのは、“正直でいること”だと」。その意味がわかった気がします。

7年もののヒゲと超小顔、モデルのような長身、自分で切っているというユニークな髪型と、彼にしか似合わないような素敵なドレス、そして、クィアらしいキュートな仕草や話し方と、ウィットに富んだジョーク。歌だけでなく、彼の一挙手一投足までなんだか目が離せなかったのは、みなさん同じじゃないですか?

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CDでの派手なオーケストラル・サウンドとは正反対の、ピアノとウクレレというミニマルでシンプルな編成のため、ライヴでは演奏できない曲がいくつもあったことを残念に思った方もいたと思います。ぼくも「abandoned」とか「german」とか聴きたかったですし。ライナーにも書きましたが、彼の左手の中指はアクシデントにより、思うように動きません。そのため、彼はギターのかわりにウクレレという楽器を「発見」したわけですが、誰かの力を借りてでないとなかなかライヴを行うことができなくなってしまいました。

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シンプルだからこそ、より彼の歌声をダイレクトに感じることができる、というのは言い訳に聴こえるかもしれませんが、Takahiro Kidoさんのおかげで素晴らしい演奏になりました。最初はピアノだけだったのですが、楽譜を見て、曲を聴いて彼なりのアレンジを考えた結果、曲によってはアコースティック・ギターやグロッケンシュピールも演奏してくれました。スコットも彼のことをとても気に入っていましたし、限られたなかでバンドとしてお互いに満足のいくパフォーマンスができたのではないでしょうか。「in the end」の崇高さ、「for dick」の深いかなしみ、「friends and foes」の祈りのような美しさ。さらにレディオヘッドの「no surprises」やスミスの「heaven knows i’m miserable now」などカバー曲の選曲も最高(「他の人が書いた曲だから、もしみんなが好きじゃなくても僕のせいじゃないよ」、と言って演奏を始めたレディオヘッドではどよめきも起こりましたね)。

アンコールの最後に演奏した「tonight you belong to me」は1920年代に作られたウクレレ・クラシックとして有名な曲で、「the Jerk」という1979年のコメディ映画で使用された曲のようです。こんなかんじで普段は彼のバンドのチェリストのClara Kennedyとデュエットしているとのこと。「みんなに捧げます」と言って演奏してくれたこの曲の歌詞がかわいらしいので、それを最後に紹介して終わろうと思います。

「知ってるよ/君は誰か新しい人のもの/けど今夜君は僕のもの/知ってるよ/夜明けとともに君は去る/けど今夜君は僕のもの」

ちょっと意味深なラヴソング(笑)けど、とてもいい曲でした。

スコットは明日、スイスのモントルー・ジャズ・フェスティヴァルで彼が尊敬するAntony & the Johnsonsのオープニングアクトを務めます。それは彼にとって重要なショーになると思いますが、いまではぼくは何も心配していません。それに彼は1万7000人の前でのライヴを経験してるわけだし(笑)一時的にニューヨークに戻った彼はぼくに次のようなメールをくれました。

「i am glad that you understand sadness is beautiful.」

スコット、また会いましょう。

ライヴに来てくださったみなさま、Takahiro KidoさんとRicco Labelのみなさん、PAの小松音響さん、自由学園明日館のみなさまや、スコット・マシューとliricoを支えてくれているすべての方々にお礼申し上げます。

今度こそ、ほんとうに最後にスコット・マシューの痺れる名言でこの長文を締めくくりたいと思います。

「most beautiful thing in the world is ‘love’, and ugliest thing in the world is ‘death of love’.」

set list

1. community
2. little bird
3. language
4. white horse
5. there is an ocean that divides
6. ornament
7. in the end
8. for dick
9. upside down
10. friends and foes
11. silent nights
12. no surprises (radiohead cover | youtube)

encore
1. heaven knows I’m miserable now (the smith cover | youtube)
2. tonight you belong to me (gene austin cover | youtube)

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One Response to “Scott Matthew 来日後記”

  1. 7月 15th, 2009 at 12:25

    Scott Matthew ライヴ終了、次はGoldmund! says:

    [...] スコット・マシューのライヴ、無事に終了しました。お越しいただいたみなさま、ありがとうございました。liricoブログにレポートを書きました。なんか長くなってしまいましたが、よければお読みください。 [...]

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