hue and cry

Dakota Suiteニュー・アルバム『The Side of Her Inexhaustable Heart』〜強すぎる気持ち・強すぎる愛〜

Dakota Suiteのことし3作目となる最新アルバム『The Side of Her Inexhaustable Heart』がGlitterhouseから11月にリリース。当初アナウンスされていた、ヴォーカル・アルバム『You Can Leave But You’ll Never Make It Home Again』ではなく、クリス・フーソン、デヴィッド・バクストンと、パリのピアニスト、カンタン・シルジャクとのコラボレーション作品『The Side of Her Inexhaustable Heart』が先にリリースされることになりました。

クリスの妻のジョアンナに捧げられているのはいつものことですが、どうやらいつも以上に彼女への強すぎる感情に溢れた作品のようです。さらにパート1〜4に別れた組曲「Yes We Will Suffer」は東日本大震災の際に日本を襲った津波に対するレスポンスとして書かれており、レクイエムの感じは強くなっています。まあ、レクイエムでないDakota Suiteの作品なんてないと言えるかもしれませんが、

ヴォーカルも入っていますが、ほとんどがインストで、個人的には『The End of Trying』や『The North Green Down』というインスト作品やライヴ盤『Vallisa』の静かな雰囲気を踏襲した、Dakota Suiteのなかでも異色のヴォーカル作品だと思いました。

例によってこの作品に寄せたクリス・フーソンのコメントがすべてを表しています。日本語に訳してみたのでよければ読んでみてください。なんというか、ジョアンナさんへの気持ちが強すぎて読むのも訳すのもしんどかったです(苦笑)世の妻帯者のみなさまはどう思うのでしょうか・・・

「人生は個性のなかだけにあり、すべての個性は暗い領域に基づいている。しかし、この領域は知識であるはず」 j.w.f shelling

私のすべてのレコードは、ジョアンナとともにある人生についてのレコードだ。彼女がいなかったら私は消滅し、ぼろぼろになるのだと認識し、彼女が私を支え、育てるのだと自覚している。はじめから私は彼女のためにすべての曲を作ってきた。

私は彼女の存在を祝福する曲を書くことを考えた。これまで以上に、彼女が私を完全にするのだということを認めたかったのだ。たまに私が彼女のことを押しのけ、彼女の感情的な耐えがたい痛みのほとんどが、この人生の生き方に対する私の無能さが原因だったとしても。この世界のなかにじぶんがいるようには感じられない苦難と葛藤、世界を感じることは私のことを触れすぎる・・・こういったあらゆるものを通して、彼女は私を離さないのだ。私の自己嫌悪と自己の憎しみにも関わらず、ジョアンナの私への愛情のキャパシティは、文字通り私を生き続けさせるものだ。たとえ私といっしょにいることを彼女が恐れているのだとしても。

2009年11月のカンタンとの出会いは同じ木から切られた誰かと会ったかのようだった。彼に世界がどのようなものかと聞いたら、彼の話す例は私の意見とぴったり合っていて、彼のピアノの演奏は、彼が私と同じように足首まで泥水に浸かりながら立っているということを示してくれた。いまでは彼は友人であり、兄弟のように思っている。

カンタンにこれらの作品のギターとピアノのスケッチを送った。あなたがいま聞いているように、彼は何ヶ月もかけてアレンジを行った。これらの作品は何百時間もチューニングとリスニングをかけ、信じられないほど小さなセクションに分けられ、真実の探求が行われたのだ。そのアイデアとは必要がなければ演奏しないということだった。私はいつもふたりの音楽的アイコン、アルヴォ・ペルトとビル・エヴァンズにいつもインスパイアされてきた。そして、もし彼らが私になんでも教えてくれたなら、それは要求されていなければなにも演奏してはいけないということだ。この音楽は真実、彼女という存在の真実、つまりは私を支えつづけるものについての真実ということすべてなのだ。彼女の存在を作り上げる静かな場所や瞬間、そして時間。

曲自体についての覚え書き:
すべての作品はジョアンナについてで、1曲を除いて新しい。カンタンが昔のアルバムから「how safe we must seem」を再アレンジしたがったのだ。「yes we will suffer」という作品は、今年のはじめに日本を襲った津波への直接的なレスポンスとして私が書いたものだ。起きてそのニュースを知り、テレビに映る荒廃を観ていたことをよく覚えている。デヴィッドとクエンティンと私は去年の12月に日本でライヴを行っただけだったが、若いころから私はあの国が大好きだったのだ。私はギター・パートをすぐに書き上げ、ストリングス・カルテットによって、木がなぎ倒され、漂う水のなかにやさしく飲み込まれていく感覚を模倣しようというアイデアを考えた。あらゆる美が海岸から押し流され、そこで暮らしていた人々の苦しみや死を思うといまだに私の胸は苦しくなる。

「becoming less and less」はカンタンと私による試みで、私たちの内なる精神状態を音楽で伝えようとした。だから美のこまやかな流れを聞くことができるだろうが、常にその端では破綻と危険が存在している。私たちがパリでこの曲をレコーディングした夜、彼の地下室の床に寝転んで、どれほど私たちの内なる思考や感情を正確に伝えることができたか、またこのようにどれほどありがたくそれを伝えることができたか驚いたのだ。

アートワークに私はいくつかの言葉を書いた。それを読めばジョアンナが私にとってどれほど意味のある存在かということについて知ることだできるだろう。私の命を救うために、彼女は眠りから覚める。ジョアンナ、このレコードはきみのためのものだ。

雨や水が
傷跡を残すように
ここには完全な形の穴があって
それはきみがくれた水から生まれた

私たちはすぐに消えてなくなるだろうが
このしるしは残る
私たちの存在をしめす歌のように
努力する奇跡
私が学んだただひとつの美

滑らかな壁とやわらかな曲線が
分け合った愛と、きみを味わう
この危険でこころが痛む場所をこえて
何年も後に彼らが私たちの骨を見つけるとき
傷跡は輝き、私たちの血は私たちのそばにやさしく寄り添うだろう

クリス・フーソン, 2011年7月

*原文はこちら

CD 1

1. As Long As Forever Is (part I)
2. Where The Tears Go
3. The Side Of Her Inexhaustible Heart (part I)
4. The Side Of Her Inexhaustible Heart (part II)
5. The Side Of Her Inexhaustible Heart (part III)
6. You Will Take All That I Love
7. The Side Of Her Inexhaustible Heart (part IV)
8. Becoming Less And Less

CD 2

1. Yes We Will Suffer (part I)
2. To Make You Whole Again
3. The Side Of Her Inexhaustible Heart (part V)
4. How Safe We Must Seem
5. Yes We Will Suffer (part I)
6. Yes We Will Suffer (part II)
7. Yes We Will Suffer (part III)
8. Yes We Will Suffer (part IV)
9. As Long As Forever Is (part II)

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11月上旬入荷予定です。

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