ちいさなベッドルームから生まれる壮大なファンタジー。少年はラップを捨て、妖精の歌声で歌う。

ベルギーのオルタナティヴ・ヒップホップ・トリオ、ケイヴメン・スピークのメンバーであり、2006年の傑作『Lemon Tea』でセンセーショナルなソロ・デビューを飾ったノマド。2008年の2月には待望の初来日も果たし、その類稀な歌声で多くの人々を魅了した。前作は「ヒップホップ・フォーク」とでも呼ばれるべき、ラップとも歌とも区分できない唯一無二のサウンドを鳴らしていたが、よりアコースティックなサウンドを志向し、ソングライティングに磨きをかけた結果、シンガー・ソングライターとして華麗なる転身を遂げた。

前作同様、作詞作曲からアートワークまですべてを自分一人で行った本作は、打ち込みのビートがほぼ消え去り、自身のベッドルームで自らが演奏するギターやピアノ、シンセサイザー、ドラム、グロッケンシュピールなどで組み立てられた慈しみ深いメロディーが印象的。彼の人間性を映したような温かみのあるローファイさはそのままに、さらに壮大さと力強さを獲得した深みのある作品に仕上がっている。hueのコンピレーション『Once a hue, always a hue』に収録された「The Weekend」のリマスターバージョンや、盟友ズッキーニ・ドライヴの楽曲「Over and Done」のカバーに加え、国内盤のみのボーナストラックとしてズッキーニ・ドライヴによるリミックスを収録した全13曲。

まるでジブリ映画のような幻想性と、エドワード・ゴーリーの絵本ようなシュールさを備えた独自の世界観がすぐさま人々を異世界へと誘うだろう。「Nomad=遊牧民」という名のとおり、ふわふわしたつかみ所のない人間離れした不思議なキャラクターはまるで妖精のようですらあるが、ひとたび彼が歌い出せばその歌声だけで空気を変えることのできる、世界でも数少ない男だ。ノマドの音楽には魔法が宿っている。