声と記憶が描き出す、もうひとつの場所

東京出身のプロデューサー/作曲家ausによる新作『mere meer』がEnji、Damian Dalla Torrらをリリースするミュンヘンの先鋭レーベルSquamaより登場。
 
本作の出発点にあるのは、環境が、声や記憶を通してどのような世界として知覚されるのか、という環世界的な問いだ。ausは現実の場所を記録するのではなく、記憶や想像を通してひとつの環境を組み立てる。
アルバムの多くは、シンセサイザーと声を使って生まれたスケッチをもとに制作され、あたかもその場で偶然録音されたかのような歌や声が、さまざまな距離感と質感で置かれている。ausのシグネチャーともいえる海のイメージが電子ノイズで表現さるなど、環境音は人工的に組み立てられ、フィールドレコーディングの身振りを借りながら、その前提を静かに裏切っていく。
 
そこに生まれるのは、現実の場所を再現したものではなく、場所についての記憶や想像がつくるフィクショナルな風景だ。遠くの海面に乱反射する光、誰もいない建物、SNSを流れていく過剰に美しい異国の風景。断片的なイメージを眺めながら、いくつもの場所を通り過ぎていく感覚。
 
これまでのaus作品にあった有機的で人肌を感じさせる響きから距離を置き、『mere meer』では、人工的でありながらどこか生々しく、親密でありながら不在を感じさせる音像が広がる。淡いシンセサイザーのドローンに、遠くで漂う歌声や細かなサンプルが重なり、輪郭の曖昧な音の層を形づくっていく。その距離感のある美しさには、世界を遠くから眺めるような、ほのかな彼岸の気配が漂っている。
 
アルバムのゲストにはPurelinkのkindtree、ロンドンのハーピストSilver Ley、国内からNoahらが参加。
マスタリングはTaylor Deupree。

 

Track listing:
1. rawstate
2. als ob
3. amami
4. O/O
5. presence
6. veil
7. noctide
8. slow life
9. sou
10. umi
11. suns
12. as found
13. all ears (damian dalla torre remix) *CDのみbonus track