
トム・グリーンウッド(Jackie-O Motherfucker) メールインタビュー |
Q. アルバムタイトルにはどんな意味が込められているんですか?
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トム・グリーンウッド(以下、T):このタイトルは古い本からの引用だよ。ジョージ・ランシング・レイモンド(*1)が1916年に発表した『Ballads, and Other Poems』(*2)という古いアメリカのバラッド(*3)集で、曲のアイデアのいくつかはこの本に由来しているんだ。 |
Q. 収録曲はどれも新録ですか?ポストプロダクションにはどれくらい時間をかけましたか? |
T:レコーディングは2008年の夏から秋にかけて行った。それまでのツアーで演奏しながら形にしてきた曲を録り直した後、冬の間はオーバーダブや足りない部分を録り足すのに費やして、作業を終えたのは2009年の4月だよ。 |
Q. JOMFはスタジオ盤とライヴ盤の境界が曖昧で、そのどちらも等価に扱っているように見えます。スタジオでのレコーディングとライヴの違いは、どんなところにあると考えていますか? |
T:ライブでは、曲の構造と音のダイナミズムに気を払いながら演奏に向き合っている。スタジオ・レコーディングでは、もっと微妙なテクスチャーを意識しつつ、ドラマティックな演出と緊張感を生み出すことに意識を傾けているよ。 |
Q. では、一曲ごとの背景に話を移していきましょう。冒頭の「Nightingale」。これはアメリカの古い民謡だと聞きました。なぜこの曲を冒頭に選んだのでしょう?僕は、これがアルバム全体のコンセプトを象徴しているのではないかと感じているのですが……。 |
T:この曲はオープニングにぴったりだと思って……。これに続くアルバム全体の展開にとって、良いスター トになる気がしてね。 |
Q. そうですか……。では、ここに参加しているゲストプレイヤーについて教えてください。ダブルベースのボブ・ジョーンズとペダル・スティールのレウィ・ロングマイア(*4)。彼らとはどのようにして知り合ったのですか? |
T:二人とも僕らの友だちなんだ。ボブはEvolutionary Jass Band(*5)でプレイしていて、ニック(・ビンデマン)のフラットメイトなんだ。レウィは以前のアルバム『flags of the sacred harp』にも参加しているんだけど、普段はもっとカントリーっぽいバンドと街中でプレイしているよ。 |
Q. 続く二曲目の「Dark Falcon」。これはLucky Dragons(*6)の楽曲のリミックスと聞いて驚きました。彼らとは知り合いなんですか? |
T:Lucky Dragonsのルーク(・フィシュベック)とサラ(・ラーラ)は、今はロサンゼルスに住んでいるんだけど、以前はポートランドに住んでいたんだ。今でもよくライヴのためにポートランドに来るよ。彼らにこのリミックスを送ったら、とても気に入った様子で、アルバムへの収録を許可してくれたよ!所属レーベルのMarriage Recordsにも話を通してある。彼らもポートランドを拠点にしていて、僕らの友だちなんだ。 |
| Q. リミックスに至った経緯は?ほかのメンバーがどのように関わったか等も含めて、具体的な作業のプロセスを教えてください。 |
| T:この曲は、僕らがレコーディングしているスタジオで生まれたんだ。制作中によく聴いていたLucky Dragonsのレコードを、ちょっと試しにサンプリングしてみて……。その後、しばらくスタジオを離れていた間に、ハニー(・オーウェンズ)が更にサンプリングして……。後になって全部を一つにまとめてみた。曲が完成した後に、ハニーがヴォーカルを乗せてくれたよ。The Mamas & The Papasのレコードのライナーノーツを歌詞にして歌っているんだ。 |
| Q. 三曲目「Skylight」。これは過去の来日公演でも披露していました。ライヴでよく演奏する曲みたいですね。歌詞の内容も合わせて紹介してください。 |
| T:これはライブでやるのが楽しい曲なんだ! ワンコードで、ナイスなフィンガーピッキングがあって、これまでにもライヴで何度もやっているから、ついにレコーディングできた!という嬉しい気分だよ。歌詞は、アンダーグラウンドのまま埋もれていった表現活動と、傷ついてもそれを諦めない人々への賛辞のようなことについて書いている。 |
| Q. 四曲目の「The Corner」は不思議な魅力のある曲ですね。ミニマルな歌声と、フリーキーなバッキングの組み合わせが面白いです。これは即興ですか? |
| T:これはアルバムの中でもお気に入りの曲なんだ。作るのは難しかったけどね。ローランドのキーボードから出るベース・パルス以外、ほぼガイドが無い上に歌詞を乗せなきゃいけなかったから……。2008年のヨーロッパツアー中に書いた比較的新しい曲だよ。すごくミニマルなものにしたかった。ハニーは素晴らしいギターを乗せてくれたよ。そこに僕がターンテーブルとヴォーカルを加えたんだ。 |
| Q. 続いては、マイケル・デュウェインのギターが耳に残る五曲目「The Cryin Sea」。彼はどんなバックグラウンドの持ち主なんですか? |
| T:彼は最高のギタリストだよ! 彼とは初めて会ったのは80年代後半のニューヨークだった。Dustdevilsっていうバンドでプレイしていたな。その後、何年も会ってなかったんだけど、僕が数年前にイギリスに住んでた頃に再会したんだ。彼は今シアトルの近くに住んでいて、よく一緒に仕事をしているよ。 |
| Q. この曲も、ライヴを通して出来上がったのですか?プレス向けの資料には「熱心な観客による後押しを受け、ツアー途中にデンマークの都市オーフスで完成した曲」と書かれていますが…… |
| T:この曲はライブで書かれたものだよ。僕らが予定していた曲を全部やり切った後も、オーディエンスはもっと聴きたがっていたから、即興的にギターのリフを弾き始めたんだ。それが段々と形になっていったから、残りのツアーでもこの曲を続けて演奏しているうちに、巨大で強力なサイケ・ジャムに発展していったんだよ。 |
| Q. 三曲目から五曲目の流れから、あなたの興味がクラウト・ロックやジャーマン・サイケに向かっていることが感じ取れますが、どうでしょうか? |
| T:そうだね。それからスウェーデンのバンド、International HarvesterとTrad Gras Och Steinerも思い浮かぶよね。彼らのスピード感やドラミングのアプローチには近いものを感じる。でも、うん、格別なのはCanのドラミング、それにAsh Ra Temple。だから彼らのスタイルを自分たちの流儀でやってみたかったんだ。そこにはライヴならではの陶酔感があるからね! |
| Q. 影響ということでいえば、元々JOMFが目指していたのはどんな方向性だったのでしょうか? |
| T:当初はSpacemen 3やMy Bloody Valentineのような、80年代後期のドローンをベースにしたアート志向のロックにとても興味があって、そこにAMM、タージ・マハル旅行団、Art Ensemble of Chicagoといった、当時僕が聴いてたフリーミュージックの多様性をプラスしたいと思っていたよ。それとハリー・スミスがコンパイルしたアメリカン・フォーク・アンソロジーに見られるような、シンプルだけどユニークな曲の構造も反映したかった。 |
| Q. 最後の曲「A Mania」は、どこか架空の国の伝承歌を思わせます。この曲には何らかのメッセージを感じるのですが。 |
| T:この曲には、アメリカとイギリスの孤高のサイケやフォークに対する僕らの関心がよく表れていると思う。僕は歌の中でしばしば、人々の諦念に目を向けることがある。孤独で、落ちぶれて、はみ出した人たちの……。 |
| Q. なるほど。そのことはアルバム全体、引いてはJOMFの音楽そのもののコンセプトを考える上で、核心へとつながるとても重要な視点だと思います。例えば、一つ前のアルバム「Valley of fire」で、あなたは路上詩人の詩を引用していましたね。これはJOMFの社会に対する革新的な思想を表していると考えられます。さらに、これまでのアルバムタイトルを振り返っても、「Liberation」「Change」「Flags」「Revolution」などアクティヴィズムを象徴するようなワードを頻繁に使っていますね。もしこの見方が正しいとすれば、あなたは歌詞にどのような思いを託しているのでしょうか。また一方で、あなたはアメリカの伝統やルーツを表現の主眼にしています。あなたは自分の中で「変化」と「伝統」をどのように位置づけていますか?それらを「変革」と「保守」と言い換えたとき、二つの要素は共存し得るのでしょうか? |
| T:そうだね……今は国際政治の中で、過剰な階級主義が台頭している時代だと思う。過去、革命運動は国家や人種、ジェンダーといった視点から始まっていた。今、僕らは広い意味で、個人の人権や人間の尊厳、反企業闘争などを信じる人々の声を代弁したいと思っているんだ。見えない階級……いわば、打ちのめされ、負け犬のように扱われ、希望を失いかけた人たちに語りかけたいし、一緒に声を挙げていきたいと思っているよ。これはぶくぶく太った企業型の政治システムに対する革命なんだ。 |
| Q. 少し質問を変えましょう。JOMFでは、メンバーが流動的で、出入りがとても自由ですよね。パーマネントなメンバーはいないのですか? |
| T:流動性と普遍性という二つの意味の言葉が一つの質問の中に出てきたね。こういった混乱を生むということがすでに、このやり方を続けるのに十分な理由なんだ。僕は、世の人々がバンドに対して決まったやり方-例えば、密接なメンバーシップや曲の形式だとか-を強く望むほど、その考え方に反発したくなるんだよ。だって、僕にとっては音楽というものは流動的で、その瞬間だけのものだから。聴く人は、ただそれを聴くだけでいいんだ。あとは音楽の方が人々を通り過ぎていくだけさ。才能はいらない、音楽の持つ魂に対してオープンであればいいんだ。たぶん、パーマネントなメンバーは僕一人だけかな……! |
| Q. 例えば、デイヴィッド・アレンはGongをバンドとは呼ばずに「同じ傘の中にいる家族だ」と言い、その傘に入った人は皆メンバーと見なすそうですが、あなたはJOMFをどのようなものと考えていますか。 |
| T:JOMFはファミリーとは言えないね。もっと、そうだな……ギャングみたいなものかな。アンダーグランドでクリエイティヴな仕事をするギャング。ファミリーというと、特別に選ばれし者たちという感じがしないよね。長期的で柔軟な音楽との関係性を考えると、メンバーには僕らの音楽と考え方に共感してもらわないとならない。JOMFに関して言えば、演奏技術よりも、音と歌を通したオープンなコミュニケーションの可能性が共鳴することを重視するね。 |
| Q. あなた自身、音楽に対するアティテュードは変わったと思いますか?変わったとしたら、どんなところが? |
| T:答えはノーだね。自分の考えを崩すことには反対なんだ。始めた頃と同じだけの情熱を音楽に対して持ち続けることができてラッキーだと思ってるよ。そうは言っても、音楽ビジネスとの関係性については、ちょっとパラノイアのようになってきている気がするな。彼らの態度や意図が信用できないんだ。 |
| Q. 音楽家として、あなたの人生を通して変わらないだろうことがあるとしたら、それは何だと思いますか? |
| T:変わらないのは発見する喜び。新しい音楽を見つけた瞬間であろうと、新しい曲が浮かび上がって完成していく瞬間であろうとね。音楽は常にそこにある。忠実な友達のように……。 |
| Q. ありがとうございました。最後に、これからのJOMFについて考えていることがあれば聞かせてください。 |
| T:最近はアイザック・ヘイズのギターサウンドにハマっているんだ。Shaftとか、他のミニマル・ファンク、それにPop GroupやHomosexualsみたいなイギリスのDIYバンドもね……そのうちわかるよ! |
[注釈]
(*1) George Lansing Raymond
1839年〜1929年。美術批評家。
(*2) 『Ballads, and Other Poems』(READ BOOKS, 2008)
(*3) Ballad
「バラッド」と「バラード」は混用されがちだが、後者が主に中世フランスで盛んだった詩形の一種を指すのに対し、前者は史実に沿った物語調の詩歌/歌曲を指すもので、英語圏の民謡との連関が強い。
(*4) Lewi Longmire
マイケル・ハーレーやタラ・ジェイン・オニールなどのサポートをつとめたこともある、ポートランド在住のギタリスト/シンガー。ソロではアメリカン・ルーツ・ミュージックど真ん中のアプローチで、The BandやThe Allman Brothers Bandなどを彷彿とさせるクオリティの高い作品を発表している。
www.lewilongmire.com
(*5) Evolutionary Jass Band
オレゴン州ポートランドのジャズ・セプテット。アフロ・セントリックでモーダル様式を、路上的なアプローチで表現する、極めて「現在的」でユニークなグループ。JOMFファンは必聴です。
www.myspace.com/evolutionaryjassband
(*6) Lucky Dragons
「日常の聴き慣れた音を、うっとりするような別モノに」をコンセプトに、観客を巻き込んだパフォーマンスなど、型破りな手法で多幸感あふれる音楽表現を行うデュオ。2008年には来日公演も行っている。
www.myspace.com/luckydragons |
インタビュー、構成、注釈:安永哲郎
http:// jimushitsu.blogspot.com
翻訳:梅原文(Inparmaint Inc.) |