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1.角田さん個人のインタビューは表立っては今回が初公開とのこと。これだけ多作にも関わらずライヴとかの表舞台にはあまり登場しないので、あえて身を潜めているのかとさえ思っておりました。また、まず初めに角田さんが主催されているWrKを始めとするバックグラウンドについて教えてください。
●私は中高生の頃から友人等とカセットを分解して逆回転にしたりマネキンの頭部でバイノーラル・マイクを作ったりして遊んでいました。ある場所の録音は昔から好きで、その場所や瞬間を切り取って持って帰ってくるようで面白かったですね。この感覚は今でも同じです。夜中の自動販売機の作動音やマンホールの内部反響などを録音するうちに、同時に実践していたファイン・アートと結びついて今のような作品になりました。
WrKはちょうど10年前、共同運営している佐藤実が私の個展にきて意気投合したのが事のはじまりです。当時はMacを駆使したインタラクティヴ作品が定着し、音を扱う作品全てはその手のメディア・アートの一部であるかのようでした。私は美術系の大学にいたので、作家やその卵たちが一生懸命やっているのはよく知っていましたが、アートシーンには常に不透明な流行り廃りがあり、何か肝心なものがないような空しさを感じていました。そこでしっかりしたコンセプトを持って活動をすることにしました。「時空間上で展開される現象や出来事とそれに対する受容と認識の変遷」というのが私たちのステイタスです。WrKは他のレーベルと異なりCDなどの制作のためだけのものではなく、展覧会なども含まれています。そのため非常にマイペースです。
ライヴなどに出演していないのは、私の制作は録音がメインなのでその性質上ライヴハウスのような会場での作品アイデアが少ないということが大きな理由です。これは今後工夫していきます。8月にはメルボルンで個展とライヴをやってきたんですよ。HPは持っていないですが、個人的にネット上に作品をアップしたいと考えています。
2. 角田さんは、海外のレーベルから非常にたくさん作品を発表していらっしゃいますが、どのような流れでリリースにつながっているのですか?また 最新作である豪Naturestripからの作品について教えてください。
●私のCDを聞いたレーベル・オーナーがEメールで直接コンタクトしてきます。自分からアプローチはしていません。Hapnaは一番最初手書きの封書でした(笑)。NaturestripのHamishとは3年前に一度東京で会いました。最新CD「デカルコマニーの風景」は知覚体験と知覚対象の分離不可能な関係を、紙の間に挟まれた絵の具の染みによってできる図像(デカルコマニー)に例えました。ある場所での出来事を観察する行為は一見客観的視点を取っているように見えますが、その体験自体がその場所の内部にあります。また逆にその体験の内部にその場所があるとも考えられるかもしれません。そんな風に出来事を見つめ直すことで新しいパースペクティヴを見出そう、ということがテーマです。フィールド録音だけでなくインスタレーションのような録音作品もあり、ヴァリエーションに富む作品になったと思います。
3. 美術系の出身ということなのですが、リリースするアートワークには厳しいのですか(笑)?
●私は大学時代油画を専攻し技法材料の研究室にいました。今でも古典的な絵画作品が好きです。自分の造形的な基礎は絵画実践ですから、今やっていることは風景画の一種と思っています。アートワークに関してはレーベルの意向もあるでしょうから基本的には向こう任せです。Wrk、Fringes、Sirr、NaturestripのCDでは自分で撮った写真を使わせてもらいました。LuckyKitchenの可愛らしいデザインには笑わせてもらいました。相手に厳しくなるのは作品解説文でしょうか。日本語では美しい2、3の文字で意味が通じるところを長い英文に訳さないといけないので。
4. 角田さんの作品は 一種のドキュメントだと思うのですが、「良い録音」とはあなたにとってどのようなもの(状態)ですか?またインスタレーションと違って「CD」という作品物になる場合はどこにポイントを置いているのですか?例えばトラックの長さ(時間の概念)はどのように決定されるのですか?
●私の録音作品を聴けば分かると思いますが、収録された場所のアトモスフェアを再現しようと思ってはいません。むしろ意外な質感が際立った聴覚的なものになっています。私は録音作品で、非常にローカルな出来事の記録が、そのまま同時に世界の抽象的な像として普遍的なものに成り得ないものかと試みています。録音を始めた当初、まずは身の回りの微細な現象を観察することに専念しました。そうすると見過ごすような生活空間の細部に濃密な響きを聞くことができました。そこに何か新たに手を加える必要は感じらなっかたのでこのままやっていこうと思いました。録音採集の作業はスケッチのようなもので、何か特に狙って録音しようという意図無く録りためていきます。CDとしてコンパイルする時にはインスタレーションを作る感覚に似ています。コンセプトを決めてテーマを設け、各トラックの解説を作っていく…。当然収録時間等の制約も生じます。トラックの長さは注目するポイントが充分伝わるところでトリミングをするようなものです。
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5. 制作に使う素材や録音用のマイクは、秋葉原等でパーツを買って組立てているとおっしゃっていましたが、どのようなものですか?また録音の時の標準のセッティングやロケーションなどについて教えてください。
●コンタクト・マイクは医療用に開発されたものを使ってます。これは実際に医師には不要だったようで、ジャンク扱いで売られていたものを数年かけてほぼ買い占めました。圧電セラミック素子にプリアンプがマウントされたもので、非常に感度が高いです。これに電池と幾つかのパーツをつないで使用します。エアー用マイクはプロ機器専門業者がヘッドの部分だけで売っているもので、直径3mm、全長20mmくらいの超小型ですが驚くべき高性能で高価なものです。これもそのままでは使えないので電池をつなぐ細工が必要です。レコーダーはポータブルDATで以上の2種類のマイクを状況に応じて使います。両方とも小型軽量なので、粘着テープやクリップを使って自在にセッティングできます。収録後の加工は基本的にしないので録音ポイントを選ぶ作業に集中します。
6. ジョン・ヒュダックも言ってましたが、ある意味角田さんの作品は科学的だと思っておりました。しかし角田さんは、「科学的なアプローチを強く意識してはいません。むしろ正反対の発想を持ってやっています。」とおっしゃっていたのが興味深かったのですが、この辺りのことを説明してください。
●物理空間での出来事を説明するのに科学的な記述は有効です。しかし、これはあくまでも多くの人が納得いく方法ということで、信憑性のようなものとして採用しています。科学的な視点は客観的な理論に基づくものです。自分の作品では知覚体験そのものを問題とするので、その視点には執着しません。ある友人に、君は常にある種のパラダイムのようなものを前提に持って制作するのでその意味で科学的だ、と言われたことがあります。
私の考えていることについていくつか例を挙げてみます。大学生の頃、夜通し小型のマイクを細い棒の先端に取り付け、都会の細部をヘッドフォンでモニターしていました。明け方、停車中の自動車の排気口にゆっくりとマイクを差し込んでいたのですが、その時頭上を通過した鳥の鳴き声が排気管に共鳴して大きく響きました。排気口の奥にマイクは進んでいくのに外部の音が大きく聞こえてきたので、空間の内側と外側が反転したような錯覚に陥りました。これは15年位前の出来事ですが今の制作に繋がるヒントになりました。
微細な振動現象にも広大な空間が関わっています。コンタクト・マイクを建築の壁などに取りつけると、そこからかなり離れた場所の振動を聞くことができます。その時、空間に対する意識がその場所まで広がると考えることもできます。上空に飛行機の音が聞こえたとしたら、上空数千メートルまで空間の意識は広がります。また音源の発生位置を場所の基準としたら、そこまで響いてくる音には短い時差があることになり、現在の瞬間が時差の束のようなものとして認識できるようになると思います。このような出来事から既成概念や客観的な視点とは異なる時空間の姿が認知できるのではないか、と考えるようになりました。
7.例えば空気中に含まれる周波数によって、所謂音楽的なハーモニーなどが聞こえてくる時があると思いますが、そのような「情感」的な観点で曲を捉えたり、実際助長させるようなことはしないのですか?それともあくまでも、録音されたものは現象としてストイックに記録しているのですか?(録音したものをイフェクト的にエディットすることは一切ないとおっしゃってましたが)
●ある現象が音楽的に聞こえるのは文化的な脈絡上の問題です。これに関して好奇心はありますが、それを期待してはいません。SirrのCDに入れたトラックで倉庫街にトランペットの練習の音が紛れ込んでくるものがありますが、当然意図したものではありません。周囲の環境が響く谷間のような場所の録音でしたから。いいアクセントになったと思います。録音の忠実な再現を意図してませんが、わずかでもイフェクトしてしまうと物理振動の面白さの意味がなくなります。楽器用イフェクターの「トンネル残響」と実際の録音では一聴するとほとんど同じに聞こえますが、精密な振幅ゲートを使って試すと減衰する様子は全く違いました。単純になだらかなスロープを描くイフェクターと比べて、実際のものは減衰も微細なレベルではランダムなパルスっぽい振幅が起きてます。そこには空間の物理的な形状が反映しているはずです。私のCDは総じて音量が低く聞こえますが、それは通常の音楽CDではカットされる帯域の周波数がそのまま入っているからです。編集ソフトなども使用せず録音そのままの状態ですのでオーディオ的にはちょっと無謀ですね(笑)。ヘッドフォンで聴くとニュアンスがわかると思います。例外として特定の部分に注目して欲しい場合は、邪魔になる帯域はイコライジングする場合があります。その他、Naturestripのトラック1、7のように、ある創作的意図を持って加工する作品もあります。
8. 今後は、「より積極的な解釈」を展開される予定とおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなものでしょうか?リリース予定なども含め教えてください。
●今、この文章を打ち込んでいる私の机の上にはボンドのうすめ液の赤い缶があります。背後の壁にはギリシャで拾ってきた廃墟の修道院の数百年前の釘があります。窓ガラスには雨水の跡があります。これらは私の部屋の空間を構成するものですが、お互いの関連を見出すのは困難です。しかし私以外の人もこの場所で当然同じものを見ることができる。この3つの関係を星座のようなものだと考えると、別の人には違う位置から同じ星座を見ることになるのかもしれません。物理空間での現象を相手にするなら、既成の関係に縛られず自由に解釈を結びつけたり、切り離すことができるかもしれません。どうも今まで悟ったつもりでいましたが(笑)、知覚体験に主観性と客観性の対立や原因と結果の因果関係の図式を引きずっていたようです。と、書きながらも具体的にはまだどうしたらいいかわかりませんが、極端に制作が変化することはないと思います。年内に制作予定のHapnaの新作ではカメレオンの視覚をテーマにする予定です。
展覧会は11月に大阪アーツアポリアの企画でWrK展が開かれます。短いライヴもしますよ。近々オランダのStiching MixerからSplit LPが出る予定です。その他コンピ、コラボなどいくつかあります。
9.普段は家でどのような音楽を聞かれているのですか?
●Plopで扱っているような音響系の作品は非常に質が高く繊細なので、聴く方にもタイミングが必要です。家で楽しんでいるのは主に6、70年代のロックです。意外かもしれませんがそういった趣向のものを愛聴しています。最近はメルボルンで会ったPhil Edwardsという画家から頂いた大量の自主録音やヒュダックの「Room With Sky」をMonster MagnetやRata Blancaと交互に聴いてます。
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