NOW nowフェスティヴァル・インタヴュー by Hideho Takemasa 2007年7月
2002年から、オーストラリア国内外からアーティストを招き、シドニーを舞台に毎年開催されているエクスペリメンタル・ミュージックの祭典NOW now フェスティヴァル。創設者の2人がシドニーを離れて以来、5人からなるチームが運営にあたっている。メンバーの2人、日本でのライヴ経験もあるヴェテラン・インプロヴァイザーのJim Denleyと、若きサックス奏者Peter Farrarの2人に話を聞いた。

1. まず、NOW nowフェスティヴァルがどのように始まったか聞かせてください。

Jim Denley (JD): 2001年にClare CooperとClayton Thomasによって全てが始まりました。当時シドニーでは、現れつつあった、あるいは水面下にいたエクスペリメンタルなアーティストや即興演奏家には演奏の機会が少なく、そこでClareとClaytonがコンサートを始めたというわけです。2002年に初めてのフェスティヴァルが行われ、その頃は、シドニーの中心にある、アーティストたちが自ら運営しているSpace 3が主な舞台となっていました。


2. 現在の組織について教えてください。メンバーの全員がアーティストなのでしょうか。みなさん全員がキュレーターですか、それとも各メンバーがそれぞれ違った役割を受け持っているのでしょうか。

JD: 以前参加していたGabeはすでにグループを抜けているので、現在は私たち全員がミュージシャンです。キュレーションの仕事は全員でシェアしている感じでしょうか。私は会計を担当していて、助成金を2回申請しましたが、一度はPeterもMonikaと一緒にその仕事をしています。ですから私たちは複数の役割をシェアしていると言えるでしょうね。みんなでやっているわけです。かつてはClareとClaytonが仕事を振り分けていました。私たちはまだ移行段階にあるんですよ。

Peter Farrar (PF): NOW nowフェスティヴァルのオーガナイザーは全員ミュージシャンです。私はサックス、Dale Gorfinkelはヴィブラフォンと楽器制作、Monika Brooksはアコーディオンとピアノとラップトップ、Jimはサックスとフルートなどの木管楽器、Lloyd Honeybrookはサックスを中心にいろいろな楽器を演奏しています。
私たちには、NOW nowフェスティヴァルとは何かという命題を押し拡げていこうという考えがあり、それがこのような大人数のチーム体制をとっている理由の一つです。メンバーの間にある関心は幅広く、私たちはこれを大事にすべきだと感じました。現在のメンバー全員が、年間を通じて行っているNOW nowシリーズのキュレーターを務めているので、私たちはこれまでたくさんのコンサートを見てきました。
メンバーがライヴやツアーのために出かける際、組織の中で負担を分散できることも大所帯の利点で、おかげでストレスも少なくて済みます。一つのフェスティヴァルを大人数でキュレーションする場合、どうしても問題が起こりがちだと思いますが、幸い私たちはみなうまくやっていて、メンバーの間で直感的に決定が行われることもしばしばです。


3. フェスティヴァルが焦点を当てているところについて聞かせてください。オーストラリアの他のフェスティヴァルにはないNOW nowフェスティヴァルの特徴をどのように捉えていますか。

JD: NOW nowフェスティヴァルは、即興演奏と、音と映像のコラボレーションの2つを重視しています。Clayのキュレーションはここに重きを置いていて、彼はよくフェスティヴァルのためにグループを作ることをやっていましたが、私たちは決定権をミュージシャンの手に戻そうと考えているので、来年のフェスティヴァルはまた違った形になるでしょう。フェスティヴァルはコミュニティ色が強く、この世界の人間の集会のような雰囲気です。オーストラリアの東側にいて即興の分野で活動しているミュージシャンはみんなやって来ているように思います。
オーストラリアの他のフェスティヴァルに目を向けると、Liquid Architecture、Unsound、i audio、What is Music?、Totally Huge、Electrofringeの名前が挙がりますが、これらのフェスティヴァルはキュレーターたちの考え、さらには個性が形になって表れたものだと思います。個人主義のご時世ですからこれは当然でしょう。しかし、私にとってこのあたりが難しいところです。私としては、NOW nowがよりコミュナルな体制の組織として発展することで、真にコミュナルな成果を手に入れる事を願っているのです。

PF: NOW nowフェスティヴァルはずっと即興に力を入れていて、これはオーストラリアの他のフェスティヴァルにはない点です。ここにはClaytonの音楽観が反映していると言っていいのではないかと思います。このフェスティヴァルのメイン・キュレーターであったClaytonは、演奏者が、居心地の悪い環境と普通でない楽器の使い方によって、誰にも予測できない結果を生み出すことに関心を持っていました。彼はコミュニティのことを考えるタイプの人間で、フェスティヴァルにおけるこのアプローチはまた、アーティスト同士が知り合い、交流を持つ良い機会とも言えるでしょう。このアプローチは、ときに音楽的に混交した結果を生み出し、また何よりもフェスティヴァルを通じてコミュニティに結束をもたらすのです。これこそがNOW nowの強みだと私は思っています。
来年のフェスティヴァルは、今までのアプローチとは異なり、自身のグループまたはパフォーマンスにおけるアイデアを持っているアーティストを選出する予定です。さらには、Claytonのコミュニティの考え方を生かしながら、アーティストがもっと自然な形でライヴを演るためのアフターアワーズ・スペースを設ける考えもあります。


4.これまでのフェスティヴァルを通じて経験したことを聞かせてください。

JD: 始めの2年間、フェスティヴァルの会場となったのは、アーティストによって運営されているチッペンデールのSPACE 3でした。2002年は、シドニー、ニュージーランド、ブリスベン、メルボルンからあわせて54人のミュージシャンが参加し、4日間に渡って行われました。2003年、74人の参加ミュージシャンのうちメルボルンからの参加者が8人を占めたフェスティヴァルの期間は6日間となり、この時はニュージーランドの一団も参加しています。2人のドイツ人アーティスト、Johannes Bauer、Thomas Lehnが演奏した2004年は、クリーヴランド通りのLan Franchis Memorial Discothequeに会場を移しました。一晩に6セットの演奏位置を固定しないライヴ・アクトが6日間続き、演奏者たちは温室さながらの会場にすし詰めとなったオーディエンスに取り囲まれる格好になっていました。毎晩100人の一般客と一晩あたり60人のミュージシャンが集まり、21世紀における即興を形作る方法を見出すべく、世界的な動向と地域の勢力に耳を向け、また実際に取り組んだのです。広く、設備の整った@Newtownに移った2005年は、4日間を通じて一晩あたりのオーディエンスの平均は400人と尋常ではなかったですよ。この年はブリスベンのSally Goldingがキュレーションした実験映画の部門が素晴らしかった。2006年の会場は再び@Newtown。この年はそれまでのフェスティヴァルの中で最も規模が大きく、また内容も充実したものになりました。外国からのゲスト、フランスのXavier Charles、ニュージーランドのJeff Henderson、オーストリアのPeter Rehberg、 オランダのCor Fuhlerがオーディエンスに歓喜を持って迎えられました。Sally GoldingとJoel Sternがキュレーションしたファンタスティックな実験映画が一つ上の階の独立したスペースで行われ、これが階下のメイン・スペースでの、ミュージシャンと映像との見事なコラボレーションへと発展したのです。Robin Fox、Louise Curham、Botburgが力強いオーディオ/ヴィジュアル・イヴェントを見せてくれました。2007年はマリックヴィルのThe Factoryに舞台を移し、@Newtownよりもさらに大きなこの会場では映像のための独立したスペースを持つことができました。さまざまな意味で前年と同じように野心的なフェスティヴァルとなりました。助成金がなかったにもかかわらず、77人のアーティストのうち、12人をメルボルンから、3人をブリスベンから迎えることができました。国外から参加したアーティスト、Robin Haywood、Werner Dafeldecker、Martin Brandlmayr、DJ Olive、Dean Roberts、Manon Lui Winter、Jamie Fennellyは非常に興味深い貢献をしてくれ、さらに地元のミュージシャンや映像とのコラボレーションをやってくれました。


5. NOW nowフェスティヴァルはエクスペリメンタル・ミュージックだけでなく映画も扱っているということですが、音楽から独立した映像について、また音楽と映像の両方に跨る部分について教えてください。

PF: 音楽から独立した映画のプログラムはブリスベンのJoel SternとSally Goldingが手がけていて、音に興味深い側面がある作品が選ばれているように思います。その他、サイレント映画に音を付けるライヴ・パフォーマンスもやっています。さらに、Botborg、Robin Fox、Louise Currhamなどのアーティストによる、音と映像がぴったり噛み合ったオーディオ/ヴィジュアル・パフォーマンスは、これまでのフェスティヴァルにおいて最も興味深いものだったと言えるでしょう。


6. "NOW now シリーズ"という名前で続けている関連コンサートについて教えてもらえますか。これは年間を通じて不定期に行われているのでしょうか。NOW nowのオーガナイザーが単独でそれぞれのコンサートをオーガナイズしているのでしょうか。

PF: "NOW nowシリーズ"は隔週の月曜夜に開催しているコンサート・シリーズです。各キュレーターがそれぞれ年間2〜3回程度オーガナイズしています。シドニー内外のアーティストから演奏したいとの希望を多く受けているので、そのうちの一部をコンサートに組み入れることもやっています。このコンサート・シリーズの狙いの一つは、即興演奏とエクスペリメンタル・ミュージックの分野で活動する地元のミュージシャンに、演奏の機会、さらには他ではできないことをやる機会を提供することにあります。

7. フェスティヴァルは助成金を受けていると聞きました。フェスティヴァルにおける助成金の意味はどのようなものですか。

PF: 助成金の状況は年によってまちまちです。助成金を十分に受けられれば、参加アーティスト全員にきちんとしたギャラを支払えますし、国外のアーティストを招聘することもおそらくできるでしょう。助成金の額が多かれ少なかれ、お金の問題はどうにか乗り越えていけるように感じています。私がそう思うのは、多くの人がコミュニティにおけるこのフェスティヴァルの価値を理解してくれていて、進んで手助けをしてくれるからです。

JD: 受けている助成金は少ないですよ。今年は助成金が全くなかったので自分たちで資金をやりくりしなければならなかったのです。キビシイですよ。


8. 日本のエクスペリメンタル・ミュージックのリスナーには、ヴェテランのJon Rose、それから日本で頻繁にライヴを演り、CDが手に入りやすいアーティスト、例えばOren Ambarchi、Lawrence English、Philip Samartzisあたりがなじみのある名前ですが、もっと若い世代のオーストラリアのミュージシャンやサウンド・アーティストについて私たちはあまり知りません。オーストラリアの若い世代の動向をどのように見ているか聞かせてください。

JD: 理由は分からないのですが、オーストラリアでは現在、サウンド・アート/即興演奏/エクスペリメンタルのシーンは活発ですよ。Thembi Soddell、Natasha Anderson、Amanda Stewart、Monika Brooks、Emily Morandini、Clare Cooper、Anthea Caddyを是非チェックしてみてください。シドニーのSplinter Orchestraは、新顔から古株までたくさんの興味深いミュージシャンが参加している素晴らしいグループで、近々splitrecレーベルから新しいCDが出ます。

PF: オーストラリアにクリエイティヴな活動をしている人間はたくさんいますが、この手の音楽に関して、特にシドニーについて言えるのは、楽器寄りの傾向が強く、楽器の即興演奏で音の可能性を探求するタイプのミュージシャンが多いことです。思いつくところでは、Dale GorfinkelとRobbie Avenaimのヴィブラフォン・デュオ、Clayton Thomasのプリペアド・コントラバス、Jim DenleyとPeter Blameyによるサックスとノーインプット・ミキシング・デスクのデュオがそのいい例でしょう。
その他、オーストラリアの素晴らしいアーティストとして、Matt Earle、Adam Sussman、Joel Stern、Thembi Sodell、Anthea Caddy、Anthony Pateras、Natasha Anderson、Amanda Stewartの名前を挙げておきましょう。
この国には、過去に行われたことがしっかりと続いていないという問題があります。若いミュージシャンの大半がこの5年以内に出てきた人たちなので、オーストラリアにエクスペリメンタル・ミュージックの長い歴史はあるにもかかわらず、私たちは何もないところから活動を始めているように感じています。ここシドニーでは、NOW nowが確かな足場となるコミュニティを築いたと感じていますが、これはほぼClaytonの仕事によって生まれたものです。
Splinter Orchestraもまた、シドニーのエクスペリメンタル・ミュージック・シーンにおいて確固たる存在です。彼らは20〜25人程度からなる即興オーケストラで、約6年前に活動を開始して以来、そのコンセプトをより強固なものにしてきました。6年は長い期間ではないとはいえ、Splinter Orchestraはそれだけの期間、定期的にライヴを演りながら活動を続けてきたこの国では数少ないグループの一つです。ここでは、もともと経験の浅かったメンバーが、実践を通じてグループの他のミュージシャンから学び、さらには、音楽は常に変化するものであることを学んでいるのです。


NOW nowフェスティヴァル・ウェブサイト
http://www.thenownow.net