[Cut INTERVIEW] Interview questions for Jason Kahn Interviewer: Hideho Takemasa

1. Cutレーベルは来年で10周年ですね。1タイトル500枚規模のレーベルをこれだけ長く続けられることはちょっとした驚きです。あなたが参加していたCutという名前のグループの録音をリリースするためにレーベルを始めたということですが、レーベル・フィロソフィーはどのように形成されてきましたか?レーベルを続ける上でどのような困難に直面し、どのように乗り越えてきましたか?

簡単に言うと、Cutの運営哲学は、私が育った70年代後半のパンクの世界で経験したことと、90年代始め頃のベルリンのテクノ・シーンで多少経験したことを拡張させるということです。パンクとテクノ、この2つの音楽ムーヴメントは、アーティスト自身が、自分の作品と気の会う仲間の作品を発表する、つまり「自分たちで決める」という理屈で成り立っていました。作曲、録音、ジャケットやウェブサイトのデザインから、レコードショップ、ディストリビューター、イヴェント・オーガナイザーとの直接のやりとりに至るまで、全てのプロセスに直接手を染めることは、私の仕事においてずっと重要な要素となっています。レーベルがこの規模であることは、このインタヴューに答える人を雇う金銭的な余裕がないように、言ってみればなるべくしてそうなっているわけです。とは言っても、私はこうしたことや世界中のたくさんの人とのやりとりを楽しんでいますよ。
私がCutを運営する上でこれまで経験した最も大きな困難はセールス、つまり、次の作品をリリースできるだけの量をいかにして売るかということです。この問題はずっと続いていますが、レーベルがだんだんと知られるようになるにつれて、販路を見つけることはそれほど難しいことではなくなってきています。


2. あなたがレーベル運営を楽しんでいることはあなた自身が手がけているアートワークからとてもよく伝わってきます。レーベルを始めた当初、あなたが自分でパッケージをひとつひとつ印刷していたというのはなかなか面白いエピソードです。あなたのアートワークについてのこだわりを教えてください。

Cutのデザイン美学は私のレーベルにおける全体的な姿勢、つまりエレガントな実用主義を反映しています。力と運動における意識を表現するデザインと作業プロセスを私は重視しています。無駄のないように、またシンプルな解決策を見出すことに飽きることはありませんよ。
具体的に言うと、Cutのスリーヴ・アートワーク(と、私が普段手掛けているグラフィック)は、リズム・反復・空間・場といった私の音作品の特徴とパラレルな関係にあると言えるでしょう。


3. Cutのウェブサイトはパッケージと同様にミニマリスティックでレーベル・イメージを一貫したものにしていますね。しかし、以前Cutの作品の一つをレヴューした際、作品とアーティストに関する情報が少なすぎるように私は感じました。アーティストによる情報やインタヴューを公開することは、リスナーに対してより積極的な思考を促し、また議論の機会を提供するという意味で有効な手段だと思いますが、あなたのやり方はリスナーに先入観を持たずにまず音を聴いてもらいたいという考えの表れですか?

私としてはCutのウェブサイトにあるアーティストの情報におかしなところがあるようには思いません。
ほとんどのアーティストについては個人サイトへのリンクがあるので、そこからアーティストに関する情報は簡単に手に入るでしょう。それにCDのレヴュ−は全部サイトで読めるようになっています。ウェブサイトにアーティストのインタヴューを載せることについては、そうするとサイトがあまりに乱雑になってしまうでしょう。
あなたの質問にある「先入観を持たずにまず音を聴いてもらいたい」という点についてはまさにその通り。私は自分のレーベルがリリースするものにレッテルを貼るようなことをしたくありませんし、そのアーティストが特定のジャンルの人間であるとリスナーに受け取られたくはありません。リスナーが自分で決めることが最も重要なことでしょう。まず聴く事ですよ。


4. Cutのリリースはあなたが直接良く知るアーティストがほとんどですね。9年間もこうした状態を維持しているレーベルは珍しいと思います。さらにレーベルのウェブサイトには現在デモを募集していないとあります。これはこれまでの姿勢を変えないということを意味しているのでしょうか?デモの中からあなたが名前すら聞いたことがなく、まだあまり知られていない才能あるアーティストを「発掘」し、その作品をリスナーに紹介することにどの程度関心がありますか?それをやるためにはCutとは別のもう一つのレーベルが必要になるということでしょうか?

新しい、あるいはあまり知られていないアーティストを紹介、さらには「発掘」すること(そんなことが可能かどうか分かりませんが)に関して言うと、これが私の目的ではないとはいえ、Cutのいくつものリリースで既に行われていると言っておくべきでしょう。私は自分が素晴らしいと思う作品をリリースしているのであって、個人的にそのアーティストと知り合いであることも珍しくはないのですが、そうでないケースも多いですよ。
実際Tu m'の作品は彼らにとって初めてのCDですし、Jason Lescalleetの "Mattresslessness"は彼にとって初めてのフルレングスのソロCDになります。Tomas Korber、Steinbruchel、Gunter Mullerの3人の作品 "Momentan-def."はこのグループとしては初のリリースであり、SteinbruchelとTomas Korberの2人を彼らがそれまで知られていたのとは違うリスナーに紹介したと言えるでしょう。Tomas Korberの"effacement"は彼にとっては初めてのCDでのリリースであり、Olivia Blockについては、私の意見では、彼女は全く知られていないわけではないにしろ、十分に知られているとは言えないでしょう。
私は自分のことを、次のトレンドに目を向ける「プロフェッショナルな」レーベル・オーナーであるとは考えていません。私の主な関心は、そのアーティストが知られていても知られていなくても、若くてもそうでなくても、エレクトロニックなものであれアコースティックなものであれ、私自身が素晴らしいと思える作品をプロモートすることにあるのです。おそらくこの理由から、Cutのリリースの多くがなんらかの形で私と付き合いのあるアーティストのものであるのでしょう。CDをリリースすることは私にとって社会と関わることであり、「ビジネス」をやっているわけではないので、そうした社会との接触と、自分と一緒に何かをする人々からの反応を私は必要としているのです。たとえその音楽をすごく気に入ったとしても、知らない人から送られたデモをリリースすることを考えることは私にとって難しいことなのです。
さらに、デモを送ってもらわないようにしている主な理由は、それを聴くための時間が作れないからです。それに、Cutのリリースは平均して年に2・3タイトルなので、私の知り合いと私自身の関心ですぐにいっぱいになってしまいますよ。
mp3レーベルはどんどん増えていますが、名前を知られていない人たちが自分たちの作品を発表するためには非常にいいやり方だと思います。今時こんなことを言うと時代錯誤だと思われるかもしれませんが、私はモノとしてリリースするやり方にこだわっているので、自分がmp3レーベルを持つことは考えていません。
大まかに言うと、私は非常に限られた予算と時間を使ってレーベルを運営しているので、何をリリースするかを決めることは非常に難しいことです。あまり知られていないけれど非常に興味深いアーティストの作品をリリースしたくなることもしばしばありますが、実際にはできません。この場合はおそらくあなたの言うように「Cutとはまた別のレーベル」が必要になるのでしょうが、そのための時間も経済的な余裕もないので、別のレーベルを始める予定はありません。


5. 前回の日本と韓国を回るツアーはスイスのアート・カウンシルから助成を受けて実現したと聞きました。スイスではアートと音楽の分野間の交流はどの程度活発ですか?あなたが関係するエクスペリメンタルな音楽とアートの両分野にまたがってディスカッションするシンポジウムなどはあるのでしょうか?

スイスのエクスペリメンタル・ミュージックのシーンとアートのシーンは重なっている部分もありますが、私の知る限りその程度は大したものではありません。ベルンにあるleerraum (http://leerraum.ch)は、CDやDVDをリリースしながら、サウンド・インスタレーションの展示も行っています。それから、ジュネーブのArchipelを始め、サウンド・インスタレーションの展示を行うフェスティバルはいくつかあります。しかし全体的に見ると、スイスのこの2つの世界の間にはもっと交流があってもいいのではと私は感じています。私のサウンド・インスタレーションはどちらかといえば音楽よりもヴィジュアル・アートの方に近いと考えているのですが、大抵の場合音楽イヴェントのコンテクストで発表されているのです。


6. あなたは杉本拓や中村としまるといった日本の即興演奏家と繋がりを持ち、Cutは彼らの作品をリリースしていますね。今年3月のツアーで日本と韓国を回った印象はいかがでしたか?日本のエクスペリメンタル・ミュージックにおける変化を感じましたか?それからこれは是非訊いておきたいのですが、このツアー中にCutレーベルの計画に影響を与えそうな収穫はありましたか?

日本と韓国を回るツアーは素晴らしいものでしたよ。特にソウルで演奏することは私にとって初めてのことだったので新鮮な体験でした。それに韓国料理は私の大好物ですからね!
日本のエクスペリメンタル・シーンについては特に変化を感じることはありませんでした。11日間ひたすら休みなしに演奏やレコーディングを行っていたので、忙しすぎて残念ながら日本の音楽シーンをじっくり見ることはできませんでした。ぜひまた日本へ行ってもっとたくさんの日本のアーティストと会ってゆっくり話をしたいと考えています。
ツアー中に日本で会ったアーティストの作品をCutからリリースする予定はありませんが、私がその作品に惚れ込んでいる角田俊也に会えたこと、それから残念ながら時間が取れずに一緒にレコーディングすることは叶いませんでしたが、直嶋岳史と演奏する機会が持てたことは非常に良かったと言っておきたい。直嶋岳史は素晴らしい作品を作ってくれるでしょう。私は彼の今後を楽しみにしています。


7. あなたはアーティストとして頻繁にいろいろな土地にツアーに出ますね。他のアーティストやオーガナイザー、キュレーターなどだけでなく、その土地のレコードショップやディストリビューター、ジャーナリストと直接会ってやりとりする機会も多いと思いますが、これまでなかなか受け入れられにくかった地域でも、エクスペリメンタル・ミュージックやサウンド・アートに対する関心が高まっていると感じますか?

音を扱う実験的な作品に対する関心は、以前より高まり、またより受け入れられるようになってきている部分も確かにあるように思います。私個人にとっては、音楽のコンテクストだけでなく、音を柔軟なメディアとして捉える、つまり音を、空間あるいはその社会的機能という切り口から考える一種の「ヴィジュアル・アート」に近いものに関心を持っている人たちにツアー中に出会えることがとても励みになっています。
あなたが具体的にどの地域を指して「音を扱う作品が受け入れられにくかった」と言っているのか分からないのですが、大きな視点から言えば、どこでもこのような実験作品が数年前に比べて受け入れられやすくなってきているとは思いません。最も大きな変化は人々の音に対する捉え方が変わってきたことだと感じています。


8. Carl Stone、Christophe Charles、Terre Thaemlitz等々、欧米から日本に移住して活動しているサウンド・アーティストやコンポーザーもいます。東京でエクスペリメンタルなレコード・レーベルを始めたフランス人もいますよ。こうしたことや逆に日本人が外国で活動する現象は今後ますます珍しくないものになるでしょう。あなたはアメリカで生まれ育ち、ドイツ、スイスと居場所を変えてきました。そこで、いつかあなたが日本に住む、あるいはヨーロッパと日本の両方に拠点を持つことは魅力的なアイデアだと思いませんか?

日本は好きなのですが住む予定はありません。どうしたら日本でやっていけるのか分かりません。私には子供が2人いて、さらに3人目が生まれる予定です。もし私が別の土地に移ることがあるとすれば、それはロサンゼルスに戻ることです。


9. レーベルとは直接関係のない話ですが、日本人である私は、またひょっとすると他の多くの日本人も、西洋人が日本の音楽やアートを禅と結びつけて捉えようとするのを見るとすごく不思議に感じます。アメリカやヨーロッパには、日本のエクスペリメンタル・ミュージックに「東洋の神秘」を求めている人がいまだに少なくないように見えます。これについてどう思いますか?

以前にもこういった質問を受けたり自分で疑問に感じたりしたことがあります。私としては、少なくとも私が一緒に何かしたことのある日本人アーティストと私自身に関して言えば、禅を意識したり影響を受けていたりするとは思いません。馬鹿なジャーナリストが日本のアーティストの作品について禅の影響を100回も繰り返し尋ねることを笑う場合を除けば話題にすることもありません。さらに言わせてもらうと、こちらから「禅とは何ですか?」と質問してみたいですよ。禅が何であるかを知っているようなふりをして、自分が理解していると思い込んでいる対象のある特徴を、異文化(日本)のアートであることを理由にする人達の考えは全く理解できません。
禅について書かれたものを読むだけでは禅が何であるかを理解したことにならないでしょうし、それは茶道を学んでも、禅僧院で瞑想しても、日本の音楽を聴いても同じことでしょう。
禅とは何でしょうか?私には分かりません。


10. あなたの部屋の壁はレコードやCDで埋め尽くされていますか?普段どんな音楽を聴いていますか?お気に入りのアルバムを5枚リストアップしてください。

私の持っているCDとレコードは小さなキャビネットに収まるぐらいの量です。家では音楽はあまり聴きません。私は時間があればもっぱら自分の音楽を作っていますからね。
お気に入りリストは好きではないのでやめておきますが、最近とても気に入っているアーティストはAsherです。最近は家で彼の作品を聴いています。彼の作品は次のサイトで見つかりますよ。

http://www.con-v.org/cnv%20r07.htm
http://www.con-v.org/cnv22.htm

ここで彼の作品を聴くことができます。
http://www.12k.com/term/term11.htm


11. Cutレーベルとあなたの今後の予定を教えてください。

Cutには3タイトルのリリースが控えています。Seth NehilとJohn Grzinichの作品、私とアルゼンチンのピアニストGabriel Paiukの作品、それからGunter Mullerのソロ・レコーディングです。
私に関しては、今年の夏にはソロ・レコーディングに取り組む予定で、9月にカイロで発表するサウンド・インスタレーションでは新しいアイデアをいくつか試すつもりです。その後でたっぷり赤ん坊の子守をしようと考えています。

 

Cut
http://www.cut.fm/

Jason Kahn
http://jasonkahn.net/

+++Cut Discography+++


cut 016 : Olivia Block : Change Ringing
cut 015 : Tomas Korber : Effacement
cut 014 : Norbert Mo"slang : Capture
cut 013 : Jason Kahn : Timelines
cut 012 : Taku Sugimoto : Music for Cymbal
cut 011 : Hudak - Kahn - Tovsky : For The Time Being
cut 010 : Korber - Mu"ller - Steinbru"chel : Momentan_def.
cut 009 : Repeat : Pool
cut 008 : Jason Lescalleet : Mattresslessness
cut 007 : Jason Kahn : Plurabelle
cut 006 : Tu m' : .01
cut 005 : Repeat : Select Dialect
cut 004 : Jason Kahn : Analogues
cut 003 : Jason Kahn : Drums and Metals
cut 002 : Repeat : Repeat
cut 001 : Cut : Popular Music That Will Live Forever