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Liricoニュー・リリース: Gareth Dickson『Orwell Court』〜その場所は常世に通ずる〜

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おそらくLiricoの2016年最後のリリースとなるのは、スコットランド人シンガー・ソングライター、ガレス・ディクソンの4年ぶりとなるニュー・アルバム『orwell Court』です。ヴァシュティ・バニヤンがもっとも信頼を寄せるギタリストとして、彼女の3度の来日に帯同してきたアーティストで、Liricoからは過去に彼が手がけたニック・ドレイクのトリビュート・プロジェクト”ニックド・ドレイク”の作品を2013年にリリースし、同年にエギル・オルセンとの来日ツアーを企画しました。

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ニック・ドレイク直系のヴォーカルと、エイフェックス・ツイン的音響世界をギターで目指したと語るサウンドスケープによって幽霊のような音楽を作りつづけてきたガレス・ディクソンの音響アンビエント・フォークの完成形。ふだん控えめな彼が「自信作」と自負するだけはあるすばらしい内容に仕上がっています。

*詳細はこちらをご覧ください:
http://www.inpartmaint.com/site/18256/

4年前の前作『Quite A Way Away』以降、ドリーミーというよりは、むしろ彼岸的なまでに美しいギター・プレイを数々のライヴで研ぎ澄ませてきたガレス。アルバム未収録ながら近年のライヴでは定番だった「The Big Lie」を先行シングルに持ってきたことからもその自信のほどがうかがえます。

昨年秋、ヴァシュティ・バニヤンの来日ツアーに帯同した際におこなった一度きりの来日公演ですでに披露されていた「Two Halfs」「The Hinge Of The Year」のより陶酔感を増したスタジオ・ヴァージョンを聴いてみても、ガレスの声もギターも、より繊細さを増しながらも凛とした強度を獲得したようにおもえます。ヴァシュティ・バニヤンの声を得た「Two Halfs」はことし一番の美しさをもった1曲でしょう。

そして、ラストを飾るジョイ・ディヴィジョン「Atomosphere」のカヴァー。こちらも最近のライヴの定番ですが、さいしょに披露されたのは2013年の来日ツアー初日、下北沢の富士見丘教会のアンコールでした。その前日だったか、大のカラオケ好きのガレスがぼくが選曲した「Love Will Tear Us Apart」にヒントを得て思いつきで披露したというとてもいい話。そこから3年たってこういうかたちで音源化されたことをうれしくおもいます。

今回、国内盤のみのボーナストラックとして、2015年の9月に世田谷美術館でおこなったライヴの音源8曲のダウンロード・コードがついてきます。こちらもほんとうにすばらしい内容です。ことあるごとに「また日本でいっしょにカラオケにいこうぜ」とメールしてくるので、彼がまた戻ってこれるように、ぜひ国内盤CDをお選びいただけたらとおもいます笑

Gareth Dickson Live in Tokyo 2015

いよいよ来週からスタートするヴァシュティ・バニアンの再来日ツアー!東京公演はそろそろソールドアウトになりそうです。今回のツアーの締めは、サポート・ギタリストとして帯同するガレス・ディクソンのソロ公演!

2013年の来日ツアーから約2年。今回も幻想的なギター・サウンドを聞かせてくれるとおもいます。ニックド・ドレイク・コーナーもあるはず。

また、12kのレーベルメイトでもあるmoskitooがサポートアクトとして出演してくれます。こちらもたのしみです!

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■日時:2015年9月26日(土)14:00 開場 / 14:30 開演
■会場:世田谷美術館講堂(東京都世田谷区砧公園1−2)
■料金:前売 3,000円 / 当日 4,000円

■出演:
Gareth Dickson
opening act: moskitoo

■PA:福岡功訓(Fly sound)

■メール予約受付:Lirico(9/25まで受付)
e-mail: ticket@inpartmaint.com
(件名を「ガレス・ディクソン」とし、お名前/連絡先/人数をメールください。予約完了のメールを返信いたします。)
※携帯電話から受信する場合、上記アドレスからのメールを受信できるよう設定をお確かめ下さい。
※予約は先着順となります。定員に達した場合受付を終了とさせていただきます。

★Vashti Bunyan Japan Tour 2015
http://www.inpartmaint.com/site/13670/

egil olsen / Gareth Dickson Japan tour 2013ツアー後記

4ヶ月遅れでツアー後記を書くことにいかほどの意味があるのかわかりませんが、6月のタマス・ウェルズのツアーを控えるいま、やはり振り返っておくべきだと思い立ち、少しことばを費やそうと思います。

はじまりはガレス・ディクソンとのやりとりがきっかけでした。日本に行きたいから誰か紹介してくれないか、と。かつて、数年前だと思いますが、ぼくは彼に「ニックド・ドレイク」プロジェクトの音源化を提案したことがあったのですが、そのときはあまり乗り気じゃありませんでした。「ツアーやるならなにかリリースがあったほうがいいよ」と改めて提案してみたら、今度はやる気になってくれて、ニックド・ドレイクの『Wraiths』のリリースが実現したのでした。『Wraiths』はぼくが長年温めていた企画でしたし、ガレスにとってもとても意味のあるものになりました。そのことは後述します。

ツアーとリリースのプロジェクトが動きはじめたとき、ガレス・ディクソン以外にもう一組を招いてジョイント・ツアーという形にしようと考えましたが、最初はもう一組はエギル・オルセンではありませんでした。実はもう確定してすべてが動いていたときにそのひとからNGが出て、当然のように困り果てたものの、急遽連絡してみたらエギルは即答で「日本に行きたい」と言ってくれました。8月のおわりのことでした。

ガレス・ディクソンとエギル・オルセン。音楽性も性格もまったく違うふたりの共通点をがんばって挙げようと思ってもなにも思い浮かびませんでした。彼らは日本ではじめて出会い、ともに旅をし、お互いを認め合い、そしてもしかしたらもう二度と会わないかもしれません。出会いと別れに伴う喜びと悲しみを凝縮したのがツアーのおもしろさだとしたら、このツアーもいろんなことが起こったと思います。ガレス・ディクソンの10年くらい着つづけているような毛玉だらけのトレーナーやエギル・オルセンの「egil olsen, singer/songwriter」と書かれたネームプレートなんかをたまに思い出してはぼくはずっとニヤニヤするのでしょう。

今回のツアーで4公演を行ったのですが、毎回、交互にトリを入れ替えました。ガレス・ディクソンの演奏には安定感がありましたが、エギル・オルセンはトリの日の出来が抜群によかった。たぶん彼は「トリ」という重要な役割を与えればその分はりきるタイプなんでしょうね。こういったジョイントツアーをおこなったのははじめてですが、たとえばエギル・オルセンが「i love you Nagoya」と言えば、ガレス・ディクソンが「i also love you Nagoya」と言う。エギルが「ガレスよ、MCとはこうやるんだよ」みたい言えば、ガレスは「ぼくのグラスゴー訛りでなに言ってるかわからないかもだけど、普段のぼくはもっとおもしろいんだよ」みたいに言う。そんなある種の対抗心がお互いのパフォーマンスにいい影響をもたらすのかもしれないですね。

ガレス・ディクソンのギターにディレイをかけた独特の演奏とささやくようなヴォーカルはいつも「向こう側」の世界を見せてくれました。でも、あまりにニック・ドレイクにフォーカスされすぎてしまったことについては、ぼくはちょっと責任を感じました。ガレスは『Wraiths』を作ったことで、「ニックド・ドレイク」プロジェクトは終わりにすると言っていて、実際にジャパンツアー以降、ニック・ドレイクのカヴァーはライヴで演奏していないようです。いろんなひとがガレスのカヴァーがニック・ドレイクにそっくりだと言っていましたが、いちばん近くにいた人間として、それでもぼくは彼のニック・ドレイクはとても「ガレス・ディクソン的」だと思いました。観客の期待に応えるかのようにツアーファイナルのCAYでの公演で予定よりもニック・ドレイクの曲を多く演奏していた彼の健気さに痛々しさも感じたりしましたが、そのあとの「Get Together」のクライマックスの圧倒的な神々しさを決して忘れないでしょう。ニック・ドレイクとか12Kとか関係なく、ガレス・ディクソンはガレス・ディクソンでした。

そしてエギル・オルセン。ライヴのたびに「My name is egil olsen. I am a singer / songwriter. i’m gonna play ‘singer/songwriter’. from my 1st album “I am a singer/songwriter”. 」という笑いを誘うお決まりの自己紹介を欠かさないのは、この曲が鬱病を克服し、じぶんの存在意義を高らかに歌い上げた曲だから。ガレスとは対照的に(意外にも)地に足の着いた、シンプルなギター弾き語り(たまにピアノも)はとても美しく親密なもので、彼のスペシャルな歌声はあらゆるひとたちの心のバリアを消し去るような温かみに満ちていました。菅野よう子との一連の仕事で近年名前を知られるようになりましたが、このツアーでは映画『ペタル ダンス』の主題歌「crouka」はギター弾き語りでカヴァーしました(オリジナルはピアノ)。菅野さんとエギルで考えたノルウェー語と造語による歌詞は異世界感満載でしたが、実際に演奏されたギターヴァージョンはふわふわした風船のようにエギルの歌が糸となってこの世界をつないでいるような印象を受けました。

ミュージシャンになる前はノルウェーでただひとりのプロの特殊メイクアップ・アーティストだった意外な過去と、それゆえのハリウッドへの憧憬、10代のころから好きだったという美人の奥さんと2匹の愛犬への愛情とかいろいろ話をするなかで、永遠の少年の遊び心のようなものと同時に、大人の落ち着きと芯の強さを感じさせ、彼の書く歌詞がいずれもシンプルでストレートな理由がよく理解できました。ちょうどツアーにあわせてリリースされた「find a way」の歌詞にはこうあります。

「道をみつけるんだ/森をまた抜けて/夜を捨てて/道をみつけるんだ/木のうえ、雲のした/月は明るく輝いている」

エギルもガレスもそれぞれお互いの道をみつけたんでしょう。エギルはニュー・アルバムが間もなく完成し、秋にリリース予定とのこと。ガレスもニュー・アルバムを作って、戻ってきたいと言っていました(ヴァシュティ・バニアンが新作を作っていてそれに参加しているみたいで、そっちのほうが早くできそうなので、彼女のツアーで日本に戻ってきそうな予感…)。

改めて、このツアーに関わってくださったありとあらゆるみなさま、すべてのお客様に深く感謝いたします。

ぼくはこのツアーがおわってほんとうに疲れきってしまい、「もうツアーはやらない」と書きましたが、あれは嘘だったみたいです。次はタマス・ウェルズ。6月に会いましょう。

*写真は三田村亮さんにお借りしました。

(さらに…)

egil olsen / Gareth Dicksonツアー終了のご報告

ご報告が遅くなりましたが、egil olsen / Gareth Dickson Japan Tour 2013、全公演を無事に終了いたしました。

各公演にお越しいただいたすべてのお客様、ツアーに関わっていただいたすべての方々に感謝いたします。

ツアー後記もいずれ書くつもりですが、いまはこうして感謝のみを記したいと思います。

ほんとうにありがとうございました。

Liricoニュー・リリース:Nicked Drake (Gareth Dickson)『Wraiths』〜ニック・ドレイクの幽霊〜

11月に来日ツアーを行うガレス・ディクソン。ツアーに合わせてニックド・ドレイク名義の新作を10/24にLiricoからリリースします。

ヴァシュティ・バニヤンやフアナ・モリーナとの仕事で特に知られているグラスゴーのシンガーソングライター/ギタリストが数年前にひっそりと行っていたニック・ドレイクのトリビュート・プロジェクト「Nicked Drake(ニックド・ドレイク)」。本作はそのプロジェクトの待望の音源化です。実は今回のリリースはぼくがかねてより構想していて実際に去年からリリースを話していたもので、こうして形になったことをうれしく思います。

*詳細:http://www.inpartmaint.com/site/6853

彼のギター・プレイ自体はバート・ヤンシュに影響を受けていますが、ヴォーカル・スタイルはニック・ドレイクに強く影響を受けています。ニック・ドレイクとの比較は彼がじぶんの音楽を作っていくうえに避けることができないことでしたが、今回、ニックド・ドレイクとしてこの作品をリリースすることの意味を考えるととても興味深いです。

トラックリストはこんなかんじ。
1. Road
2. Free Ride
3. Parasite
4. From the Morning
5. Things behind the Sun
6. Rider on the Wheel
7. Cello Song
8. Place to Be
9. Harvest Breed
10. Fly
11. Pink Moon

『Pink Moon』収録曲を中心にセレクトされています。半分ほどの曲は今回のリリースのために新たにレコーディングしています。たとえば「Parasite」や「Harvest Breed」などはオリジナルに忠実に演奏されていますが、多くはガレス・ディクソンなりの解釈でカヴァーしています。ぼくの個人的な印象では、ニック・ドレイクよりも儚げで、まるで三途の川で演奏しているようなイメージです。

アルバム・タイトルの「Wraiths」はスコットランドの古語で「幽霊」という意味だそうで、ガレスのスコットランド人としてのルーツを表すと同時に、この作品がニック・ドレイクの音楽の幽霊のようなものだというふたつの意味が込められています。

11月の来日ツアーではもちろんニック・ドレイクの曲も歌う予定です。1974年に亡くなったニック・ドレイクが当時ライヴ活動をしていたかどうかぼくは知りませんが、もししていたとしてもそのライヴを観たことがあるひとは多くはないでしょう。

ニック・ドレイクの幽霊。

ある意味ではそれが観れる機会なのかもしれませんね。