hue and cry

Tamas Wells Japan Tour 2011 後記(後編)

12/9(金)

4度の来日のなかでもっともコンパクトなツアー。2日目にしてツアー・ファイナルです。この日はサウンドチェックの前にラジオのインタヴューの収録。大阪のFM802の「BEAT EXPO」からのオファーで、インタヴューとスタジオ・ライヴの収録が行われました。

日本のラジオのインタヴューはこれで3度目のことでしたが、スタジオ・ライヴははじめてのこと。「When We Do Abigail」と「True Believers」をキムのコーラスを交えて演奏しました。ちなみに収録のあいだ、アンソニーはというと、スタジオの外で待っていました。「なかで座って待ちなよ」って言ったら「いや、いい」って。気づいたらどこかへ消えていました(笑)

インタヴューではミャンマーのまじめな話からだいすきなお好み焼き(と、きびだんご)の話、さらにはこどもの話まで飛び出し、終始なごやかな雰囲気で進んでいきました。「ぼくの娘はぼくの曲は1曲だけ好きな曲があって、あとはきらいなんだ」。そういえば、タマスの娘はもしかして彼のライヴをまだ観たことないのかなと気になって訊いたところ、一度だけあるそうです。ミャンマーで行われた最初で最後のタマス・ウェルズのライヴ。まさに幻のライヴの存在を、ぼくはそのときはじめて聞いたのでした。フランスの大使館かなにかの主催だったそうで、「とても奇妙なライヴだったよ」と、タマス。

最初で最後、と書いたのは、ラジオのインタヴューでも話していましたが、ことしの5月くらいに彼はついにミャンマーを離れ、オーストラリアに戻るそうなのです。彼らの親からの、「孫の近くでいたい」という要望からで、彼は「家族みんなで暮らしていくべき時間が来たんだ」と言っていました。「じゃあ、オーストラリアでもライヴをしやすくなるね」ってぼくが言ったところ、彼は目を丸くして「そっか・・・家族や友だちたちと会うことばかり考えてて、オーストラリアでの音楽活動のことなんてこれっぽっちも考えてなかったよ」と答えました。いかにも彼らしいです。いまはタスマニア島で暮らすネーサンももうすぐメルボルンに戻るそうなので、実に8年ぶりにタマス・ウェルズ・バンドのみんながメルボルンに揃うときがもうすぐ来ようとしています。「じゃあ、ぼく、メルボルンに遊びにいくから、そのときライヴやってよ」。「いいね。じゃあ、シンはDJやってよ」とアンソニー。「OK、でもサッド・ソングしかかけないけどね」。

大阪でのライヴは2007年の最初の来日以来のこと。今回の会場は難波にあるartyard studio。artyard informerというフリー・ペーパー/ウェブジンを運営。かつて、スコット・マシューの来日時にインタヴューを行っていただいた縁があります。ギャラリーなどが集まったアート・ビルの一角にあるホワイトキューブ状の清潔な空間。

オープニング・アクトとして演奏してくれたのは、Weather SpoonというバンドのヴォーカリストでもあるトラノさんのソロTorenoによるギター弾き語り。Dakota Suiteを愛する彼は日本人アーティストでは珍しくLiricoとも共鳴するシンガー・ソングライターなのです。この日も期待に応えてくれていたと思います。「Lapis Lazuli」は名曲。

続くキムはきのうと同じセットでしたが、1曲違っていたのは、翌日に結婚式を控える友人へ捧げたウェディング・ソング。昔、結婚した親友のために作った曲らしいです。この話は後述しますが、こういう彼のマメさは正直タマスにはないものですね。

そして、いよいよタマス・ウェルズの登場。この日も会場がざわざわしてるなか、さらっと「Fire Balloons」を演奏しはじめました。撮影した映像観ると特に気になったんですが、次からはもっとタメを作るように注意しておきます(笑)

結論から書くと、この日も東京公演と同じセットで、「Open the Blinds」を追加した点のみが変更点です。ツアーの前には新曲も演奏すると言っていたのですが、残念ながら結局のところ新曲が演奏されることはありませんでした。

この日は特に後半に演奏した曲がどれもよかったと思いました。「True Believers」「England Had a Queen」「Lichen and Bees」という流れはとても心地よかった。「True Believers」は昨年はタマスのソロで演奏していましたが、今回は3人で。今回しばしば観られた光景ですが、ギターのリフをタマスとキムが向かい合って弾き合うのはこれまでのライヴではあまりなかったことなので、なんだか新鮮な気分。みんなの表情がはっきりと見えるのもちいさな会場だからこそでしょう。ソノリウムのときのような緊張感はまったくなかったですが、とても親密な雰囲気に包まれました。

「England Had a Queen」。昨年のソノリウムのライヴでアンソニーが入るところを間違えた事件がありました。ことしのアンソニーはそれをネタに、タマスとキムのほうをニヤニヤ見ながら「さあ、間違えるぞ」ってかんじで違う箇所で弾くポーズをとっていたのは最前列のお客様なら気づかれたかもしれませんね。初日はまだタマスもキムも苦笑して反応してあげてましたが、この日はガン無視(笑)。この一連のネタは映像に残っていますが、恥ずかしくてお見せできるようなものではありません・・・。ちなみに「For the Aperture」のバンジョー・ソロ、この日は思いっきりミスって会場のみんな爆笑・・・。あのひとはほんとうに憎めない男なのです。・・・いつか完璧なライヴを見せてくれる日が来るといいな。

なんだかアンソニーのことをおとしめてばかりなので、フォローしておかないと。特に初日でとても効果的だったあの映像(VACANTのプロジェクターはすごくよかった)。写真が少しずつ変化していく美しい作品ですが、あれは実は彼の作品なんです!すごいね、アンソニー!

本編を締めたのはザ・ビーチ・ボーイズ「Do You Wanna Dance」のカヴァー。彼にとってどの曲をカヴァーするのかというのは、ぼくらが思っているよりもずっと難しい問題らしく、その基準とは「クラシックなメロディーを持っているか」ということだそうです。「Moonlight Shadow」と「Do You Wanna Dance」はそういった厳しい戦い(?)の末に勝ち残った美しい2曲。その場でリクエストをしてもすぐに演奏できるほどの器用さは彼にはないので、タマス・ウェルズへのリクエストは1年前にお願いします(笑)彼は歌詞を覚えるのが得意ではないのだ。歌詞以外に関する記憶力はすごくいいんですけどね。


Tamas Wells – Do You Wanna Dance? (Live at artyard studio)

アンコールの「When We Do Fail Abigail」は東京と同じアカペラ・ヴァージョン。これは今後、彼らの新しい武器として定着していくんじゃないでしょうか。
平日開催だったため、両公演とも集客は思うようにはいきませんでしたが、2011年という年の締めくくりをタマス・ウェルズのライヴで行えたのは、きっと多くのかたがたにとって、このうえない幸福だった、そんなライヴだったにちがいないと信じています。ぼくは今回で彼のライヴを16回観たことになり、おそらく世界でいちばんタマス・ウェルズのライヴを観たひとのひとりだと思いますが、何度観たとしても新鮮さを失わない、いつも魔法を感じさせる彼の歌を、どうすればよりたくさんのひとに聴いてもらえるか、それが大きな悩みです。ツアーを終えてから気づいたのですが、今回がぼくが担当した10回目の来日ツアーでした。5年で10回。年に2回と考えるとすごく多い気がしますが、とりあえずひと区切り。その10回のツアーで経験したことやいろいろなひとたちとの大切な出会いすべてがかけがえのないものです。


Tamas Wells – When We Do Fail Abigail (Live at artyard studio)

今回の公演にお越しいただいたみなさまや、VACANT、Fly sound、artyardのみなさま、FM802のみなさん、通訳をしていただいたyasさん、その他ツアーに関係したみなさまがたばかりでなく、これまでの10回のツアーに関わったすべてのかたがたに感謝したいと思います。

ツアーをやるときはいつも「これが最後」という覚悟をもって臨んでいます。生半可な思いではないからこそ、喜びや感謝も大きいのです。震災以降、その思いはより強くなりました。会えるときに会いたいひとに会おう。それはいまやみなさまの頭のなかにあることだと思います。タマス・ウェルズの「次」はいつかわかりませんが、3月にはラディカル・フェイスのツアーが決まっています。たくさんのかたがたとお会いできることをたのしみにしています!

番外編へとつづきます。

set list 2011.12.09 @ 難波 artyard studio
1. Fire Balloons
2. Vendredi
3. The Crime at Edmond Lake
4. Your Hands into Mine
5. Moonlight Shadow
6. Thirty People Away
7. Valder Fields
8. Fine, Don’t Follow a Tiny Boat for A Day
9. Nowhere Man
10. Signs I Can’t Read
11. The Opportunity Fair
12. For the Aperture
13. Writers from Nepean News
14. Open The Blinds
15. Melon Street Book Club
16. True Believers
17. England Had a Queen
18. Lichen and Bees
19. Do You Wanna Dance

[Encore]
1. When We Do Fail Abigail
2. Reduced to Clear

- Tamas Wells Japan Tour 2011 後記(前編)

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